騙し合う銀 本
□第4幕
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「(うちの枝垂桜だ――おかしいな――春は…もうとっくに過ぎたはずだけど…)」
リクオは屋敷の庭にある枝垂桜の前にいた。しかし、今は冬。桜が咲いているはずがない。
「誰?」
ふと、枝の上に人が居るのに気づいた。
「そこにいるのは…誰?」
問うてみても、答えてくれるようすはなかった……
「おはよーございます若ぁ!」
変な夢を見、寝起きは最悪とまではいかないが嫌な気分。
そんなリクオの目の前に、豪華な食事の数々。全て今日の朝ごはん。
「これは…?」
「いやぁ―――昨日の夜は勇ましゅうございましたぁ――…」
「は?」
傍にいたカラス天狗に問いかけると、返ってきたのは昨日の夜がなんたらかんたら。
「おうカラス、若がとうとう目覚めたそうじゃなぁ!!」
部屋に入ってきた子鬼が言う。他にも部屋の至る所から妖怪が飛び出し、皆が言うのは“覚醒だぁ!”とのこと。
「なんの話?」
しかし、当の本人にはその記憶がない。目の前でどんちゃん騒ぎが始まるのをただただ見続ける。
向こうではカラス天狗がリクオが覚醒したわけなどを熱く語っている。
「ねぇ若…って、アレ――!?」
カラス天狗がリクオの方を見いたときには、既にリクオの姿はなかった。
「知らないよそんなの…全っ然覚えてないし」
皆の隙を突いて外に出たリクオは、そのまま自室へと向かう。
「(そういえば鴆君の家に行ってからの記憶がない。本当に変身したのかなぁ…)」
寝不足で働かない頭を必死に動かしても、なにも出てくることはなかった。
『……(やっぱ覚えてないか)』
フラフラと危なっかしく歩くリクオを屋根の上から眺める奏。先程のやり取りから全てを見ていた。
『ま、惚れた発言された私にとっては、嬉しいことだけど』
正直覚えてたらどうしようかと思った。会いずらいし、話しかけずらい。
そのため、万が一に備えて彼女は屋根の上で待機していたのだ。
「奏!なんでそんなトコにいるの!?」
『何となくー』
「何となくって…いいから行くよ!遅れる!」
なぜ屋根にいるのに気づいたのかは分からないが、そこから飛び降り、先に行っているリクオの後を追った。
「カナちゃん!おはよう!」
「おはよう…お互い今日は早いわね!」
カナとのあいさつで顔を輝かせている(?)リクオを見て、昨日の発言はなんだったんだと心の中で呟く。
『(言いや。昨日のアレも遊びだろ。あの姿になるとお遊びヤローになるんだろ)』
リクオとカナを残し、奏は教室に向かった。
『(あー…人生初の告白だったと思ったのに。結果がこうだとなぁ…)』
はぁ…とため息をつく。教室が近付くにつれ、あの匂いが漂ってくる。
『(休んでなかった…あーヤダ…)』
カバンを握り、氷牙をつかむ。
…いっそのこと凍らしてしまおうか。
『いや、可哀想だから止めておくか』
…ん?
『(この匂い…陰陽師。花開院家の者か…私はあの家柄が好きじゃない。サボろうか)』
しかし、この世には“義務教育”なるものがある。この義務(という名の呪縛)からは逃れられない。
『…行くか』
止まっていた足を動かし、キザワカメの匂いが充満する教室へと入った。