騙し合う銀 本
□第5幕
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騒然としたその場。部屋の中心にたたずむ陰陽師。
「な…」
「なんだあ〜〜〜〜〜〜!」
人一倍驚き、脅えていたのは氷麗だった。部屋の隅ではぷスぷすと煙を上げる人形(もとい妖怪)
「…お…陰陽師だって!?け…花開院さん!?今…確かに…あなたそう…言ったんだね!?」
頷くゆら。“陰陽師”という言葉に、カナが後ろを振り向き奏を見つめる。
「じゃ…じゃあ…こいつは…今、まさか…」
シャアァアアアッ!
今にも襲いかかりそうな勢いな妖怪。しかし、体中に札が貼られているため、動くことができない。
「やっぱり妖怪なんだぁ!!」
カナは悲鳴を上げ、私の後ろに隠れた。
「ほんまに、危ないとこでした」
“危ない”
その言葉に奏の体がピクリと反応した。そのことに気づかない周り。
清継は歓喜し、リクオは驚き、氷麗は脅える。
「私は…京都で妖怪退治を生業とする陰陽師、花開院家の末裔…」
「そういえば花開院って…テレビで聞いたことあるような…」
「それは…祖父の花開院秀元ですね」
「そ、そんな有名人がなぜ…」
別に有名人じゃないと思う。実際、お前の後ろの私だって陰陽師だ。
「この町…浮世絵町はたびたび怪異に襲われると有名な街。噂では妖怪の主が住む街とすら言われているんです…」
妖怪の主…きっとリクオのこと。
「それにもう一人“銀狐”がいる街とも言われてます」
『…』
「銀狐…?なんだい、それは…」
「その名の通り、銀色の毛並みの狐です。銀狐は動物からなる妖怪の主。私達陰陽師にとっては、なくてはならない存在です」
「妖怪なのに……?」
確かに矛盾している。陰陽師は妖怪を滅する者。なのに陰陽師が妖怪を必要としている。
だが、“私は”必要とされた覚えはない。それどころかあいつらは……――
「はい。銀狐は陰陽師の血も受け継ぎ、妖怪と陰陽師との中立な存在。昔はこちらに付いたこともありました」
『(聞いたことがある…)』
「私は、より多くの妖怪を封じ陰陽師の頂点に立つための修行としてここに来ました。
しかし、第2の目的としては銀狐をもう一度こちら側に引き寄せるということもあります」
誰が行くか。今、物の怪組の総大将は私。私が行かないと言えば、皆行かない。
「す…すごいぞ!!プロだ!!プロが来たんだ!ボクの…この清十字団に!!」
一人大喜びのキザワカメ。
「ぜひぜひ協力してくれないか!!ボクも…ある妖怪達を探していたんだ!!」
「ある…妖怪?」
「そう!!そのお方達は、月夜を駆け巡る闇の支配者…もう一度…ボクは彼らと会わねばならない」
「それはまさか…百鬼夜行を率いるもの…」
「そう…おそらくは彼らこそが…」
「それはいったいどこで…「妖怪の主」
ゆらの言葉を遮り、気味の悪い笑みを浮かべるとゆらの手をとった。
「一緒に探そう!!妖怪の主を見つけ出そうじゃないかー!!清十字怪奇探偵団、ここに始動だー!!」
キザワカメが一人で大声をあげているさなか、札で動きを封じられていたはずの妖怪が動いた。
妖怪は近くにいたカナに襲いかかる。
「滅」
その言葉とともに砕け散る人形。押さえていたモノが、ブチギレた。
『な………こ……を…や……た』
「え?何か言ったかい?奏さん」
「危なかった…」
つかつかと砕けた人形に歩み寄り、破片を拾い集める。
「な、なにしてるんや!?えっと、確か……」
『お前なんかに名乗る義理はない。陰陽少女』
ハンカチを取り出すと、それに丁寧に包む。
「奏さm…ちゃん?」
氷麗が不思議そうにこちらに寄ってくる。
『これは私が引き取る』
「なっ!?妖怪なんよ、それ!」
『キザワカメ、これもらってく』
「か、構わないが…」
陰陽少女の横をすり抜け、出口に向かう。もう少しで出られるというところで腕を掴まれた。
『何の用』
「何って…それ、持って帰ってどうするん?」
『陰陽少女には関係ない』
「さっきから“陰陽少女”って…私の名前は…」
『私、花開院家って嫌いなんだよ。自分達の都合で妖怪を滅する。そのくせして、都合がいい時だけ妖怪と手を組む…』
腕をつかむ陰陽少女を睨む。その視線に、その場にいた全員が呑まれた。