騙し合う銀 本
□第7幕
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ゆらは一人、夜の街を歩いていた。なぜここに来たのかすら分からない。
男共から声を掛けられ、困っていた時、突然後ろから名前を呼ばれた。
「あ…えと…家長さん…?」
「この時間は危ないよ、この辺」
「え?」
「いこっ、どこに住んでんの?あ、一人暮しなんだよねー」
背中を押される。
「…私って…まだ修行がたりひんわ…本当にいると思ったのに…奴良くんに失礼なことしてもーた…」
その場に立ち止まり、黙りこむ。そこへ近づく、一つの人影。
「わっ、女の子が落ちこんでるよ〜。ひーろった!オレの店まで持って帰っちゃおーっと」
一人の男性がゆらとカナの肩を掴む。
「それともどっか行く?いーねそれも!!ボクと一緒に遊ぼうよ〜」
その言葉にカナは男性を睨み、ゆらの手を掴んでその場を立ち去ろうとする。
が、しかし、タイミングを計ったように二人を囲む数人の男性。ピクリ、と反応するゆら。
「下がって…家長さん」
「ゆらちゃん…?」
突然、金髪男の表情が変わる。
「つれなくすんなよ、子猫ちゃん❤アンタら…3代目と姫様の知り合いだろ。
夜は長いぜ、骨になるまで…しゃぶらせてくれよォオ❤」
金髪男が髪をかきあげた瞬間、人間の顔から鼠の顔へと変化した。
「か…顔が…化物ッ…」
「長い夜の始まりだ」
ゆらはカナの手をとって走る。しかし、行くところ全てに鼠がいる。
そしてとうとう、彼らの思惑通りに、路地裏の行き止まりへと追い詰められた。
「キャッ、いや…!なに…!これ…?ゆらちゃん…」
「妖怪変化…昼間説明した通りよ。こいつらは…獣の妖怪」
知性があっても、理性がない。近づいてはいけない…妖怪。
「大人しくしてりゃあ…痛い目見なくてすむぜぇー」
「…鼠ふぜいが、粋がるんちゃうわ」
鼠妖怪の言葉に、怪しげに笑うゆら。その顔には、昼間の彼女の面影はない。
「後ろに下がって家長さん」
「え!?」
カナを後ろに下げさせた途端、襲い掛かってくる鼠達。
「出番や!!私の式神!!」
軽やかにステップを踏み、カエルの財布の中から人型の紙を取り出す。
「貪狼(たんろう)」
紙を前に突き出すと、紙はその姿を変え、巨大な狼へとなる。
『(お、始まったか)』
ゆらが式神を出した頃、奏はビルの上で傍観していた。手を出す気は“今のところ”無い。
『まずは実力を確かめないと』
《ピュイ》
『もしそこそこいけそうなら手は出さない』
でも…
『ダメなら、花開院に借りを作るのも、悪くはない』
ニヤリ、と不敵に笑いながら、食い殺されていく鼠を見下ろしていた。