騙し合う銀 本

□第1幕
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【関東平野のとある街、浮世絵町――
 
そこには、人々に今も畏れられる「極道一家」があるという――】





「奏ちゃん!おはよう!」


『あ、カナ。おはよ』



とあるバス停の前でこの物語の主人公であり、妖怪の血を四分の一ついでいる奏と、ごく普通の人間であるカナはいつものように落ち合った。



「リクオ君は?」


『まだ来てない』


「もう、このバス乗り損ねたら遅刻って毎日言ってるのに…」



そうは言いながらもちゃんとバス停の前で当の本人が来るまで待っているカナ。こういう所は優しい。



「カナちゃん、奏ちゃん!」



そこへようやく本人が登場。腕時計を見れば、バスが出発するまであとわずかというぎりぎりの時間。
早速リクオはカナに怒鳴られている。しかしリクオはその言葉を家の者が…といい始める。
バスに乗り込み窓からリクオの家を見てみれば、玄関には少数の妖怪の姿。普通は見えないのだろうが妖怪の血が入っている奏には丸見えだ。



…向こうからは自分の姿は普通の人間と同じに映るようにはしているが。



実は彼女、父親が妖怪、母親が陰陽師という実におかしい組み合わせの両親が居る。
退治する者とされる者。両者がなぜか惹かれあい、その間に生まれたのが奏、という訳だ。

そのせいもあってか他の妖怪たちからはあまり好かれてはいない。それは両親も同様だった。だが組の者たちは違った。
彼女の父親が率いている物の怪組の者たちは彼女と母親を温かく迎えてくれた。



『(ここの家に住んでるってことは、リクオも少なからず妖怪にかかわってるのか?)』



ちらり、と前に座っているリクオを見やる。しかし、その姿からはわずかな妖気さえも感じられない。普通の人間と同じ気を漂わせていた。



『(私が考え過ぎているのか?)』



もんもんと考えていると、隣に座っていたカナが不思議そうな顔を向けてきた。



「どうしたの奏ちゃん?何かあった?」


『いや、別に何でもないよ。ただ今日の自由研究の発表誰だったかなぁって…』



とっさに口から出まかせが出る。しかしカナはそんなことにも気付かず律儀にもその質問に答えてくれた。



「今日は清継君の番だよ」



と…


その答えを聞いた途端、奏の顔は歪んだ。それは物凄く嫌そうに。
彼女は超が何個も付くほど清継のことを毛嫌いしていた。理由は定かではないが…


そうこうしているうちに学校につき、その考えはそこで中断された。










―4時間目の体育―



「6秒9!!」



グラウンドでは50m走のタイムをはかっている最中だった。ちなみに今の記録はリクオだ。男子の中ではトップの早さだ。
そして男子とは反対側のレーンでは女子のタイムが測られていた。もちろんそこにはカナと奏の姿もある。彼女達は最後の組らしい。



「5秒2!!」



スタートからわずかの時間でタイムが言い渡される。いつの間にかレーンの周りには先に終わったのか男子の姿もあった。



「すごいよ奏ちゃん!そんなに早く走れるなんて」


「奴良にも負けてないよな」


『(そりゃ私妖怪だし。しかも狐。結構速いんだよね、狐って)』



心中ではそんな事を思いながらも表面では妖怪という事を感じさせない。
かくして体育の時間は終わった。
残るは奏の嫌がる自由研究の発表会のみとなった。



『(ああ、サボりたい。あいつ(清継)の話なんて聞きたくない。あいつ狐の嫌がるきつい匂いを放ってるし…)』



どうやら彼女は匂いで嫌がっていたようでした。





…しかし時は過ぎるもの。とうとう自由研究発表会の時間がきてしまった。黒板にはでかでかと掲示物がはられている。
それだけを見れば写真やそれに対しての文章などが事細かに書かれている。



『(研究の努力は百歩譲って認める。でもその内容が嫌なんだよね…
何で私達妖怪を完全否定するような内容なんだよ。私達があいつらの前に出たらどんな反応するだろうね…)』



発表何か聞き流し、心の中でそんな事を考えている彼女。しかし、周りのクラスメイトは熱心に聴きこんでいる。



「―――それが鎮寺されたのが今のあらたま神社といわれています!以上」


「私達の班は郷土の伝説をまとめました」



周りからは感心から出るため息と拍手が鳴り響いた。先生までこの発表は満点と言っている。確かに小3でここまでまとめられるのは凄いことだ。
しかも当の本人清継はなぜかこちらを見つめてくる。あんたに見つめられても虫唾が走るだけだから見ないでよ。
(清継は奏に気がある様子)



はっ本当にくだらない。



「妖怪っていい奴らだよ」



くだらないと思い、皆とは違う意味の溜息を吐き、頬杖をつきながら膝の上に隠しておいた本を読み始めて少しした時、そんな声が聞こえた。
この声は確か奴良リクオだっただろうか?いつも一緒に登校しているものの、今まで話した事はほんの数回程度。しかも両手で数えられる程度だ。

そんな奴がいきなり妖怪について語り始めれば、誰だって驚く。



『(あ、でも妖怪を信じてるからどんどんみんなが遠ざかってる。あいつ(清継)が一番うざい。何あの余裕ぶった態度。ムカつく…
しかもリクオがぬらりひょん?あの総大将の?はっ、まさか、ね)』



一方妖怪なんて気味が悪い、ぬらりひょんって悪い奴なんじゃん、といわれているリクオは気分がどん底にまで落ち込んでいた。
今までかっこいい、いい奴だと思ってきた妖怪を全面否定されたのだ。
しかも自分の祖父であるぬらりひょんに対してはかってに人の家に上がり込み飯食って帰る妖怪とまで言われた。



「はは…でもみんな安心して!妖怪なんてのは昔の人が作った創作だから!ね!奏さん」


『(いちいちこっちに振るなよ。第一私はあんたの言ってる妖怪なんだけど?)…』


「…この現代には妖怪なんか出るはずないんだからさ!」



さすがに何人もの生徒で言い寄っていたため先生が止めに入り、今日に発表はここまでとなり、皆下校した。




  
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