リングの光T 本
□標的39
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『いだい〜…』
深夜の並中体育館………の天井。そこにカレンは居た。今回は外のフィールドではなく、体育館中。
照明が至る所にあるため、闇龍の力は発揮されない。ので、今回は光龍に手伝ってもらっている。もちろん、誰にも見えていない。
『アリガトな、光龍っ、て、痛て…』
《あまり無理をなさらないでください。ただでさえ、昨日のことで大怪我を負っているんですから…》
『そーなんだけど…』
そう。昨日鮫に喰われてしまった闇龍の翼。闇龍自身にたいしたダメージはいっていないが、僕の体は別だ。
昨日癒龍に見てもらったが、皮が剥げていたという。…つまり、肉丸見え。考えただけでも悪寒がする。
『ま、大怪我っていっても僕は傷の治りが早いし、明日には元通りになってるだろ』
《そうは言いましても、大怪我は大怪我です。今後、気を付けて行動してくださいね》
後ろに疑問符が付いていない。うわ、これはかなり怒ってるな。
『あ、ほら、始まった』
無理矢理話題を変え、下のフィールドを見つめる。ちょうどツナ側の霧の守護者がやって来たところだった。
『凪…いや、今はクロームだっけ』
ん?なんか忘れているような…あ、そうだっ!
『(この後凪が、ツナにキスするんだった…)』
なんか複雑な心境だ。
『あれ?』
《どうかしました?》
『いや、なんでもない…』
下ではすでにバトルが始まっている。ツナと凪のキスがなかった。僕が入ってきたから、無くなったとか?
『いいや、もう。考えるのが面倒になってきた…』
《?》
光龍が変な目で見てくるが気にしない。気にしていられない。
『幻龍、姿消して出てきて』
《何だ?》
『幻覚汚染が始まるから、僕の周り汚染されないよう膜張っておいて』
《承知した》
既に幻覚の出し合いは始まっている。さすがに僕も…耐えられないな。
《カレン、我も観戦していてよいか?》
『どーぞお好きに』
騙し合い。術師に戦い方の参考になる一戦だ。
コォオオオ
突然、カレンの持つおしゃぶりが光り始めた。
『ヤバッ、封印し忘れてた!』
急いで封印を施せば、光は出なくなる。もう少し反応が遅れてたら、バレてたかもな。
《あの赤ん坊、アルコバレーノだったのか》
『そう。藍色のおしゃぶりを持つアルコバレーノ』
この場に3人のアルコバレーノがそろっている。めったにないことだ。
『凪は堪えないといけないな』
《何をですか?》
『バイパーからの攻撃を』
骸と同じ技を出しながら、互角でやり合っているようにも見えた。だが…
《…幻覚を幻覚で返される。すなわち、知覚のコントロール権を完全に奪われたことを示す》
《そうなると、どうなるのです?》
《相手の思うがままになる。術師同士の戦いでは、幻覚を幻覚で返された時、その者の敗北が決まったと言っても過言ではない》
凪の出していた火柱は凍らされ、下半身までもが氷漬けにされてしまった。そして、大切そうに持っていた三叉槍までもが、壊された。
《カレン》
『何?』
《信じがたいが、あの娘は幻覚で作られた臓器で延命していたのか?》
『その通りだよ』
三叉槍が粉砕された途端、凪の腹がみるみる陥没していった。血反吐を吐き、苦しむ姿は見ていられない。
シュウウウ……
《何だ、この力の大きさは…何か、来るぞ》
『骸さ。骸が来るんだよ』
会うのは久しぶりだなぁ…と、頭の片隅で思う。粉砕されたはずの三叉槍は復活し、付けていた眼帯は外れ、赤い瞳が現れる。
発生していた霧は凪の居た場所を包み込み、球体を帯びる。そして、その球体からは独特な笑い声が響いてきた。
《六道骸か…あの時の》
『幻龍の幻覚が見破られたんだよね。まぁ、力の半分も出せてなかったから仕方ないんだろうけど』
《…》
『(黙っちゃったよ)』
屈辱的な思いでなのか、幻龍が全くしゃべらなくなった。
『骸ならバイパーと互角に戦える。もう見守らなくても心配ないな』
《帰るのか?》
『いや、帰れないから。骸から頼まれたこともあるし』
光龍の上に座っていたのを、腹ばいになって横からのぞく体制にする。
『復讐者の牢獄に入れられてるのにわざわざ来るほどなんだから、よほど凪のことが気がかりだったんだろうね』
《牢獄に入れられていた割には、前より強くなっているようにも見えるが》
『強くなったんだよ。でも、アレは凪に憑依してるだけだから、全力で戦ってるわけじゃない』
既にバイパーを追い詰めている骸。アレで全力ではないのだから、彼の全力は計り知れない。