泣けない鎮魂唱。

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『ん…ッ、…ッ〜;
…あれ?』










目を覚ませば、ラウンジ。


シャカシャカシャカシャカ、と軽い音が聞こえてくる方に目を向けると、シェイカーを振る姿が様になっている男性、河住さんの姿。

…しか観えない。



少しだけ酸欠が治りきっていないのか痛む頭を片手で抱えながら、周りを見渡す。
…やっぱり河住さん以外、誰もいない。





『…あるぇ〜…?
…つか何で俺ラウンジにいんの?』


「目ぇ覚めたかい…?坊っちゃん…」


『ぉうふ…河住さん…チーッス』


「フッ…相変わらずイケメンだな…俺の次に」


『ぁ…はい…あざっす…;』





キラキラした物を背負いながら、キッチンから俺のいるテーブルへと歩いてくる河住さん。
相変わらずな態度とあいさつに半ば苦笑しながら、一応ありがとう、と毎回同じ返答をする。




しかし今日は何か違う。


真っ白なカップを手に持っていて、小首をかしげると同時にカチャリ、と目の前に置かれた。
中には薄茶色の液体が入っていて、ふわふわと暖かい湯気が上がっていた。






『紅茶…?』


「あぁ…頼まれていてね…
起きたら飲ませてやってほしいって、さ…フッ」


『へぇ…誰にですか?』


「ほら…あの、頭にウサ耳つけた彼さ」


『ウサ耳…』






カチャ、と音をたてながらカップの手持ちを握る。
少しだけ口に含み、喉に通す。






『…美味い』


「それは良かった…」


『うん…川住さん、ありがと』


「フッ…
それは、ウサ耳の彼にも言ってやるんだな…」


『うん…言っとく』









じわじわと暖かくなる喉。


自然と緩む頬。






俺が意識を飛ばす前にやってしまった行動への罪悪感からなのか、それともたまに見せる本当の優しさからなのか。
後者に限っては非常に分かりにくいことで表現してくる奴だから、付き合いが長くならないと分からないことも多くて。

まぁきっと、アイツのことだ。
どっちもそうなんだろうけど、こうやってちょっとしたことでも気にしてくれるところが、アイツの、夏目の良いところだったりする。





キッチンへと帰って行く川住さんの後姿を眺めながら、もう一度紅茶を口に含もうとカップを口元に持っていく。








と、









――――ゴキッ…・・







『Σブフォッ』







何かがぶつかったような、嫌な音。

いきなりすぎてビックリしてしまい、軽く口に含んでいた状態の紅茶をぶちまけてしまった。





『ゲホッ、ケホッケホ…!!
な、なんだッ!!??』





ガタンッ、と席を立ち、去り際に川住さんへ、紅茶ごちそうさまでしたー、と叫びながらラウンジから飛び出す。



最悪な事態だったとしたら…、もし純粋な妖怪が何らかの形でこの妖館へ足を踏み込んでいたとしたら…。




音が聞こえてきたような気がする方向へと走りながら、そんなことを思っていると背後から聞こえてくる、俺の名前を呼ぶ声。






「龍牙様ッ!!
何なんですか、先程の音ッ」


『さぁ…分からないけど、確かめる』






後ろから走ってきたのは優飛で、俺の隣に並び走りながら言葉を続ける。


きっと優飛も音を聞きつけてきたんだと思う。





お互いに最悪なことになっていないことを願いながら、必死に走る。




何もないと良いけれど…ッ。








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