泣けない鎮魂唱。
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角を何度か曲がり、いくらか上がり気味の息を整えながら走り続けると。
『はぁ、…はぁ…ぁッ!!!』
「龍牙様、アレッ」
『うん…ッ、おーい凜々蝶ッ、双ッ!!!』
目の前、と言っても少し遠いところにいた、凜々蝶と御狐神の姿。
大声で名前を呼ぶと、こちらに気付き振り向く2人。
自分たちに向かって走ってくる俺と優飛の姿をおどろいたように見つめてくるが、その場にとどまっていてくれる。
やっとこさ目の前に辿りつけば、俺は両手を膝につき、少しだけ乱れた息を整える。
優飛も少し乱れていたが、膝に手をつくことなく俺の後ろに立っている。
「ど、どうしたんだ御簾澤くんッ!!??
いきなり走ってくるなんて…;」
「何かあったんですか?」
ワタワタと慌てるように聞いてくる凜々蝶と、しゃがんで俺と目線を合わせてくる御狐神。
どちらも眉を八の字にしていて、心配してくれていることが分かる。
『ぃやさ…はぁ、ッ何か、大きな音が、したから…ッはぁ、はぁ』
「大きな音…?」
「あぁ…それはきっと、猫月さんが壁に頭を打ち付けられた時の音ですね」
『…へ?猫月?』
妖怪の名前が出てくるかと思ったら、何故か懐かしい奴の名前。
思わず耳を疑うが、凜々蝶の後ろの方でもぞもぞと動く大きな姿に目を見張る。
『嘘…だろ…ッ
ぇ…猫、月…なのか!!??』
「、!!」
それは俺が此処に来たばかりの時に、まだ俺が十分幼かった時の話。
そんな俺を、口下手だけれど、無口だけれど、まったく喋ったりしない、そんな繊細な奴だったけど。
俺の傍を離れずに、ずっと一緒にいてくれて、守ってくれていた、俺の良き理解者だった奴の姿。
何度その大きな手に守られたことか。
何度その大きな背に乗せられ、そこを涙で濡らしたことか。
あぁ…本当にお前は。
『ッ、猫月!!!
お前、ここにいたのか!!!』
つい以前からの癖で、勢いよくカウンター越しではあるが抱きつくと、一瞬だけビクリッ、と体を強張らしたがゆっくりと頭をなでてくれた。
懐かしい、この手の大きさと暖かさ。
本当に懐かしい、本当に。
『なんだよ、まだ妖館にいるたのなら教えてくれてもよかっただろ?』
「…;」
『はぁ…相変わらず、恥ずかしがり屋か?
まったく…、いい意味でも悪い意味でも変わってないな』
相変わらず、ヤのつくお仕事の人みたいな人相の猫月。
だけどそれも懐かしく思えてしまってにっこり微笑めば、ポッと赤く染まる頬。
「あのぉ…龍牙、様?
そちらの方は…猫月さんとは、どういったご関係ですの?」
『ん?』
とんとん、と肩を叩かれたので振り向くと、ポカンとした表情の御狐神と凜々蝶。
そして困惑している表情の優飛。
『あれ?言ってなかったっけ?』
「「「…?」」」
『あ〜…えっと。
こいつ、猫月は俺の元SS、です』
…………。
「「「え?」」」
『「?」』
「「Σえぇええぇぇぇぇえぇッ!!??」」
「本当なんですか龍牙さまッ」
大声で叫びながら驚く優飛と凜々蝶。
そして驚きながらも叫びはしない御狐神。
しかし御狐神は俺の両肩をガシリッ、とひっつかんであり得ない…ッ!!!といった表情でまくしたててきた。
『Σ嘘ついてどうすんだよッ!!??』
「まさか…、ハッ!!
ということは…僕の知らない龍牙さまの幼いころを知っているということですか…ッ」
『まぁ…そーゆー事になるな;』
「そんな…そんなことって…」
ゆらり、とふらつく御狐神。
あり得ない…、と呟きながら額に手を当てながら絶望してるけど、お前のその行動があり得ないよ。
『何なんだよお前ら…;』
「…;」
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