泣けない鎮魂唱。
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何故か俺のカミングアウトに放心状態になっていた3人を叩き起した後。
凜々蝶と御狐神に何故猫月と一緒にいたのか、と問うと、何やら夏目と渡狸
のペアと勝負事をしているらしい。
なんでそんなこと…、と思うが、夏目が絡んでるってことはきっとアイツの気まぐれな思いつきが発端だと思う。
勝負内容も知ったのだから、俺も名前書くのか、と聞けば、もうすでに書いてある、と用紙を見せられた。
確かにそこには俺と優飛の名前と、何の先祖返りなのかも書いてあって。
まったく書いた覚えがないんが、書いてあったそれはもちろん俺の筆跡、ではあるが少し汚い…。
優飛に聞けば苦笑いしつつ、夏目が俺にペンを持たせて無理やり書かせた、と言ってきた。
…そんな話を聞いた後で、なんかもう勉強とかどうでもよくなってしまった俺は、部活の指導に出かける時間まで一緒に付き合ってみることにした。
御狐神と凜々蝶の後をついて行く状態で優飛と一緒に歩いて行く。
と、急にズシリ、と感じる重み。
それはだいぶ前にも感じた重さと一緒で、ぱらり、と肩に落ちてくる赤銅色の髪の毛に奴の姿を思い出す。
『…おい、またお前か…』
「わーいりゅーたん、さっきぶりーvV」
『うん…分かったからどいてくれ、重い』
ニコニコとした笑みを浮かべて抱きついてきたのは夏目。
それに対して、ひきつった笑みを浮かべてしまった俺。
「Σまぁッ、また貴方ですの!!??
龍牙様から離れてくださいましッ!!!」
「あー、そーたんとちよたん。
さっきぶりー☆」
「先程ぶりです、夏目さん」
「な、何をしているんだ君ッ!??
ウォークラリーはどうした…!!」
「Σちょっと!!??
シカトしないでくださいます!!??」
「しーッ。
ちよたんもゆーたんも声大きい!!」
めっ、と口に指を当てて注意する夏目。
優飛に対しては逆効果だったのか、ムキーッ、と怒りだし火に油の状態。
そんな俺はもうどうにでもなれ状態。
流れに身を任せていると、口元に指を当てうるさい、と注意したと同時に背中から離れていった重み。
その重みの正体だった夏目はラウンジへと続く扉の前で、何かを覗き込むかのように体をかしげている。
「覗いてるのバレたら、渡狸がテレちゃうじゃない〜」
『「覗く?」』
凜々蝶と一緒に、顔を見合わせて首をかしげる。
夏目が覗くように、俺達もそっと扉に手をかけて中を覗いてみると、そこにいたのはカルタと渡狸の2人。
カルタは椅子に座っていて、渡狸は何か紙を渡していて、名前をかいてくれ、と頼んでいるようだ。
「ん…、こう…?」
「ん。
えーと…、じゃあ…」
「渡狸…。
渡狸。ずっと帰って来なかったから…心配した…」
「………悪い」
『……ふーん、なるほどね…』
最初はきっと、また夏目の面白半分な思いつきに遊ばれてんだろ、と真剣に思ったが、これはどうやらちゃんと意味があったようだ。
「…これがなんなんだ?」
「渡狸、長く家開けてたから心配かけちゃったからって、話しかけ辛かったみたいなんだー。
何かきっかけがないとね☆」
『……。』
いきなり話を変えて笑いだす夏目と、それに地味に本気で反応を返してしまう凜々蝶。
面白がられていることにも気付かない凜々蝶は真剣に相手をしてやってる。
…律義だなぁ、凜々蝶も。
ひと段落したいざこざを境に、凜々蝶と御狐神はエレベーターホールへ向かい、優飛は俺の後ろに佇んだまま。
そんな中で1人だけ渡狸の方へ向かっていこうとする夏目の腕をガシッ、とひっつかむ。
『おい夏』
「ん〜?なにりゅーたん♪」
『お前さ、本当〜にッ、優しいよな、うん』
「、ぇ」
『そーゆのさ、俺好きだよ』
「ッ!!??」
『じゃーなー』
驚いて開眼したまま止まっている夏目を其処に置き去りにし、優飛と一緒にエレベーターホールへ。
想った事をそのまま言った。
正直に。
…渡狸にもあからさまな優しさ向ければいいのになぁ。
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