泣けない鎮魂唱。
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あの後俺は、優飛の運転する車に乗って高校へ。
柔道部への指導を数時間程して、また車に乗って。
そして、色々あって忙しかった一日を終えた。
それでも、そんなことのあった後。
何故か気になった事が一つ。
『…なぁ、優飛』
「…はい?」
『お前さ…あの後からおかしいけど、どうした』
そう、夏目の遊びに付き合ってあった後から様子がおかしい優飛。
なんかよそよそしいというか、いつもだったらもっとベタベタしてくるというか、もっと自分に正直だと言うか。
なんていったら良いんだろう…。
とにかく、何かがおかしい。
こうやって一日の終わりに入れてくれるホットミルクティーの味も、いつもとはだいぶ違った味に感じる。
「そ、そんなことありませんわッ!!
いつも通りですわよ…?」
『…ふーん…けっこう違うと思うけどね』
まぁ言いたくないなら良いけど、と言いながらミルクティーを一口。
突き放したような一言を焦ったようにオロオロしだす姿。
…ちょっとした悪戯、というか、こうやって突き放したような一言を浴びせれば慌てる事を知っている俺。
だからどうしても俺が知りたいこととかに関しては、最低手段として使わせてもらってる。
少しは悪いと思っているけれど、でもこういう場合はしょうがないだろう。
「ぁ、あのッ」
『…んー?』
「…龍牙様は…以前、猫月さんが…ッSS、だったんですわよね…ッ」
『うん?
そーだけど…なんで…?』
その先を促そうとすれば、やたらと言いにくそうにますますオロオロとしだす優飛。
俺はソファーに座っていて、優飛は立っているから必然と上目づかいになってしまう俺。
それが拍車をかけているのか、どうしたものか、と思案顔ではあるが。
グッと拳を握り決心したように顔を上げる優飛の目に、もう迷いはなくなったようだ。
「龍牙様…私は…、龍牙様のSSで…いていいんでしょうか…」
『………は?』
…思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
何を言い出すかと思ったら、俺のSSで良いのか?、何て。
『なんで急にそんなこと…』
「ッだって…、龍牙様には、以前SSだった猫月さんが、いらっしゃるではありませんか…ッ!!」
『!!、…あぁ…そーゆーこと』
「私は…分からないのですッ」
自分がSSでいて良いのか…。
そう続ける優飛の顔は悲しみに歪んでいて、だんだん下にさがって落ちて行く。
どうやらこいつは、自分よりも以前から一緒にいる猫月の方が俺のSSにあっているんじゃないかと心配しているようだ。
…何を心配してんだ、こいつは。
『あのなぁ、優飛』
「つい先日からSSになった私何かより、きっと猫月さんの方が…ッ」
『優飛』
少し強めに名前を呼べば、ビクリッとビクつく肩。
確かに、一緒にいた時間は猫月の方が長い。
優飛とは比べ物にならないくらい一緒に時間を過ごしたと思う。
『だけどな、雄飛』
「……」
『俺はお前をSSとしてじゃなくて、友人として傍にいて欲しいんだ』
「ッ!!!」
「俺、本当に心からお前にSSになってほしいって言った時、一緒に言ったよな。
SSじゃなくて、俺の友人になって欲しいって」
確かに猫月もSS以上の存在だったかもしれない。
だけどアイツは違う。
友人て言うか…、歳の離れた兄ちゃんっていうか…。
『…俺が先祖返りじゃなかったら、父さんって、こんな感じだったのかな、って思ってたんだ…猫月のこと』
「龍牙…様…」
先祖返りじゃなかった姉さんや妹には、本当に優しかった父さん。
優しく触れて、優しく笑っていて、俺はそれが羨ましかった。
だからきっと、猫月にはそれを重ねていたんだと思う。
SSだけど、いつの間にか父さんと重ねてしまっていたのは事実。
『だから、お前を俺のSSなんて思ってない。
俺の、友人だって思ってる。
正直、SSなんて誰でもなれる。
だけど、"優飛"っていう友人はお前しかいない』
だから、もうそういうことは言うな。
そう言ったら、やっぱり目に涙をいっぱいためて泣きだした優飛。
そんな彼の姿に苦笑しつつも、俺はただ笑いながらそいつの頭を撫でてやった。
...1人1人の差...
(それがあるから人って面白いんだろ?)
(次言ったら本気で怒る)
(りゅー…ッさ、まぁ…ぅ…ッ)
(泣くなよー男だろー)
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