泣けない鎮魂唱。

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『…ッ、なんでお前が謝るんだよ…!!』


「………」


『お前は、いっつもそうだ…ッ!!』






目と鼻の先にある、夏目の顔。

いつもと違う、真剣な顔。



だるくてしょうがない体を起して胸倉を掴み、引き寄せたのは俺。
手にも力が入らなくて、全然本気で掴むことはできなかったけど、夏目はされるがままで。

それにも余計イライラして…。








『お前も…双も…ッ、
何でお前らはそんなに俺を腫れものを扱うみたいにするんだッ!!!

俺だって1人の人だ!!!
凜々蝶と卍里と一緒だッ…一緒なのに……全然違う……ッ』


「………」


『ホントに…ッ…、おかしくなりそうだ……』





ゆるり、と抜けていく腕の力。
重力に逆らうことなく布団の上へと落ちてきて、ぽすん、と軽い音をたてた。


顔を上げられない。
目線を合わせられない。
拒絶されるのが…怖い。





ぎゅっと、拳。

ぎりっと、唇。





傷つくのはいつも誰かで、俺じゃない。

俺はいつも、肝心な時に護られてばかりだ…。









気持ちがだんだんと自分の中で爆発しそうになってきて、起き上っていることがばかばかしく思えてきた。
このまま倒れて目を閉じて、そして二度と目を開くことなく眠れれば良いな、何て思いながら。



ゆっくりと、後ろに体重を倒していけば…いきなり感じる、反発力。



…何するんだ…俺はこのまま倒れて二度と目を覚ましたくないのに…。





「…りゅーたん…
君は本当に変わらないね」


『…は……?』





閉じかけていた瞼をこじ開けて、視界に飛び込んできたのは苦笑気味な夏目の顔。

ちらり、と背後に目を動かせば腰にまわった細い腕。
ああ…コイツに止められたのか、俺の眠り。





『…何すんだ』


「このまま寝かしたら、もう絶対僕達にりゅーたん自身の心、開いてくれなくなっちゃうと思ったから」


『……視t「てないよ」……』


「言ったでしょ?
視なくても分かる…僕達、幼馴染でしょ?」


『………』






グッと強くなった腕の力。

その細い腕にそんな力があったのか、何て。
やけに頭の中は冷静で、さっきまでふわふわしていたイライラはどこかに行ってしまったのか…。

いや、そんなことはない。
今でも腹の中は煮えくり返ってる。






「りゅーたんはさ…小さいころから僕の言葉に一喜一憂してたよね」


『……何だよ、いきなり』





ぼそり、と呟かれたのは過去の話。

小さいころって…俺とお前が遊んでたのなんて…。





「僕さ、百目の先祖返りでしょ?
それをちっちゃい時のりゅーたんが、なんでだか知っちゃった時…覚えてる?」


『………ない…』


「ふふ、だよねー。

りゅーたんね、寝込んじゃったんだよ、熱出して」


『……!!』





そんなの…覚えてない。

夏目が百目って知った時って…じゃあ、俺は最初コイツの事を先祖返りって知らなかったってことか…?


でも…誰が俺に…















「龍華」


『どうしたの、  』


「お前も同じ先祖返りなのだから、私たちと一緒に遊べ」


『うん、いいよ』










あれ…


これって…


誰…、だっけ……?














『ねぇ、夏』


「んー、なぁに?」


『夏も先祖返り?』


「…うん、そだよ」


『そっか…じゃあ、何の?』


「…それは……」












あ…そっか…




これか…



アイツは…











「残夏はな、百目の先祖返りだ」


『百…目…?』


「お前の考えていること、全て奴には視えてしまう」


『全部…視えるの……』


「あぁ、全部な」











『……俺だ…』


「ぇ…」


『…知らされたんじゃない…
知りたかったのは、俺自身だ。

お前は答えなかったのに……
…知ろうとしたのは、俺だ』






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