泣けない鎮魂唱。

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ジリリリリリリ・・・



無機質な機械音。
その音を皮切りに、遠方と遠方を繋ぐ新幹線が動き始めた。

小さな窓から見える景色が瞬時に変わっていく。
ガタガタと体には負担にならない程度の揺れが心地いい。


そんなことより、まずは自分の席を探さなければ・・・。
通路を歩きながらキョロキョロと見渡しながら番号をたどる。
自分の切符に書かれた番号の席を見つけ、ちらりと席に目を移す。
その席の隣には先客。この新幹線が行き先に到着するまで旅を共にする人。

窓からの光でキラキラと反射する水色の髪、翡翠のように透き通った瞳。
横顔からでも分かってしまうこのイケメンっぷり。
・・・少々嫌な客の隣になってしまったようだ。

青年くらいの歳だろう・・・、彼は隠すことなく大きく欠伸をひとつ。
イケメンな容姿とあくびにあっけに取られていたが、彼がこちらに気付き、ゆっくり顔を向け目があったことで気付く。




「あの・・・すみません。
お隣よろしいですか?」

『えぇ、どうぞ』




ふわり、と微笑む彼に柄にもなくドキリとしてしまうが、顔が赤くなる前に手荷物を荷物置き場に上げることに。
こんなイケメンで美人な雰囲気を醸し出す彼の隣で・・・自分は気軽に休めるだろうか・・・。


そんな事を思いながら腰をおろし、ふぅ、と小さく息をつく。
もう一度ちらりと彼を隠れ見ると、また彼は大きなあくびをついている真っ最中だった。
そんな姿でも画になってしまう彼の容姿。
産まれてこの方、フツメンだった自分にとっては羨ましい限りだ。




「はぁ・・・」



思わず出てしまったため息。
ため息も付きたくなる状況だから、しょうがないだろう。
正直、イケメン羨ましい。
自分もイケメンに生まれたかった。




『あの、』


「Σは、はい!??」




そんな事を思っていたらいきなり声をかけられた。
しかも隣から。
いきなりすぎてビックリしてしまったため、ガタンと大きな音をたてながら頭が天井にぶつかる。
うぉぉ・・・痛い、痛すぎる・・・。



『あ、すみませんッ。
いきなり声をかけて・・・大丈夫ですか?』


「だ・・・大丈夫です・・・;
気にしないでください、ははは・・・;」


『本当に?』


「Σは、はい!!////」




痛みを逃すように頭を抱えていたため、覗きこまれれば自然と下から見上げられる形で顔を見られる。
すぐそこにイケメンの顔が、しかもドアップで視界入ってしまえばそビックリするどころか赤面してしまうのは当然のことだろう。

きっとこれを友人の中にいる数少ない女性たちに話せば、きっと羨ましがられるだろう。
・・・それだけで終われば良いんだが・・・。

大丈夫、と言っても心配そうに見つめてくる彼は、イケメンな上に性格もいいのか・・・。
うん、神は二物を与えず、というがあれは迷信だ。




『本当にごめんなさい、俺が急に話かけたから・・・』


「いえいえ!!!
そんなことはないですよ!!!
僕がドジだっただけですから。
もう大丈夫なんで、気にしないでください」


『・・・本当に大丈夫?』


「大丈夫、大丈夫」


『そう?・・・ありがとう』


「へ?」




頭から手をどけ、ぶんぶんと顔の前で振れば、やっと彼は安心したよう体制を元に戻していく。
その途中でなぜが「ありがとう」と言われた僕は、思わず変な声を出してしまった。
何故だろう、と思いながら首をひねるとクスリ、と小さく綺麗に笑われた。
・・・何故だ。




『俺が悪いのに許してくれて、ありがとう』




柔らかくふわり、と笑う彼。
あぁ・・・そういうことか、と納得。
彼は僕が大丈夫だと許したことに、ありがとう、と言ってくれたのか。
綺麗な微笑みにつられて、こちらも自然と笑顔になる。









それから後は、お互い初対面だとは思えないほどに話に花が咲いた。
席を見つけた時に予感をした最悪の旅だったが、そんなことを思った自分を呪いたい。

名前も年齢もお互い明かさない状態での会話。
すこし不思議に思うだろうが、これがまた普通にできることに驚きを隠せない。普段の自分であればこんな大胆な事は出来ないだろう・・・。
彼だからこそ、こうやって大胆に話を続ける事が出来たんだ、そう思ってやまない。




気付けば、お互い自然と敬語が抜けていた。







『あ、俺この次の駅で降りなきゃだ』


「あ、そうなの。
それは残念だな・・・もっと話したかったよ、君と」


『ははっ、ありがとう。
俺ももっと面白い話してたいけどね・・・そうすると降りる駅見逃すから』


「あははっ、確かに」



綺麗に微笑むこともできる彼だが、こうやって豪快に男らしく笑うこともできるらしい。
この短時間で、彼という人物がどんな男なのか、少しだけだが分かったような気がする。
そしてそれが、とても嬉しいと思っている自分がいた。



だんだんと速度が落ちていく新幹線。

倒れないようにゆっくりと立ちあがった彼は、荷物棚の上に置いてあった荷物を取るために腕を伸ばした。

その姿をみて、なんだかこのまま別れるのは、少しだけ寂しい気がした。
こんなに仲良くなったのに(自分の中の基準では、だが)・・・。




「ねぇねぇ」


『ん?何?』


「あのさ、短い時間とは言え仲良くなった気がするんだけど・・・その・・・」


『・・・?』


「よかったらさ、名前だけでも教えてくれない?」


『名前?・・・あぁ、そっか。
教えてなかったっけ』


「うん、聞いてないし、僕も教えてない」



まいったなぁ・・・、と自称気味につぶやく彼が荷物を肩にかける。
そのまいったなぁ、が何を意味しているのかは良い方向に考えるとして・・・、彼の後ろに見える窓からの景色に、新幹線が完全に停車したことを知った。

彼はポリポリと頭をかいて、へにゃり、と恥ずかしそうに笑った。

ぁ・・・こんな笑い方もするのか。




『なんか恥ずかしいな、今の今まで言ってなかったから今さら感ハンパないし・・・』


「あー、まぁね」


『龍牙』


「え?」


『俺の名前、御簾澤 龍牙』




にかっと笑いながら手を振り、じゃあね、と言って出口へと歩き出す後ろ姿。
一瞬なんの事だか分からなくて、離れていく後ろ姿に反応が遅れてしまった。
追いかけようと腰を上げるが、ジリリリリリリリ・・・と出発の時に聞いた機械的な音が再び流れ出す。

ああ、出発してしまう・・・。

なんだかやるせない気持ちになって、ガタン、と音をたてて座る。
全身の力が抜けた気がした。



名前は聞いた。
でもそれはしっかりしたつながりとは言えない。
落ち込みそうになったが、まぁでもこれはこれで面白い出会いだと思う。

きっとまた、会えるだろう。



「その時までのさようなら・・・かな」



自然と口元が上がるのを感じながら、再び動き出す新幹線の心地よい揺れを感じながら、瞼を閉じた。




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