短編
□彼の彼
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久しぶりの休日を満喫して街をぶらぶらしていると、前方に気になる人物がいた。
お、あれは。
「上條ーさんっ」
かわいい後輩のかわいい恋人は怪訝そうに振り返り、俺の姿を認めた瞬間不機嫌さを滲ませた。
あらら。
完璧に嫌われちゃってるね、これ。
「……何か?」
「いやあ、美人がいるなあって思って声かけたら上條さんじゃないですか」
「………用がないなら失礼します」
えわー、思いっきり嫌そう。
それ本ジワになりますよ、と眉間のしわを見る。
こうやって見ると、かわいいっていうより綺麗って感じだな、なんてまじまじと顔を見つめていると彼はぱっと顔を赤らめた。
「な、なんですか?」
お、新鮮な反応。
野分がかわいいと言うのもちょっと分かるかもしれない。
「一緒にお茶とかどうですか?」
あれ、何誘ってんだ、俺。
「結構です」
上條さんの即答に思わず苦笑いした。
ばっさりだな、俺一応野分の先輩なんだけど。
―――ああそうか。
野分の先輩だからか。
「野分、明日には帰しますんで」
「あ、そうですか」
何気ない風を装っているけどまた赤くなってる。
今度は耳まで。
この人、ホント隙だらけだな。
野分に洗脳されてるからか、どの仕草一つ取ってもかわいく見えてしまうから不思議だ。
「あいつ今ちょっと死んじゃってるんで帰ったら元気注入してやって下さいねー」
そう言えば、彼の意識はもう恋人の元。
真っ直ぐでかわいい人。
この人に想われるってどんな感じなんだろう、なんて、思ったのはきっと―――。
end.