短編

□縮めたい距離
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問題を解く手を止め、ちらりと彼を盗み見る。


丸付けをする手。
しゃんと伸びた背筋。
さらさらの髪。
細くて白い首筋。


そっと嘆息する。
本当に、彼を形作る何もかもが美しい。




―――触れてみたい。




彼の華奢な体をこの腕で抱きしめたい。

会うたびに、自分が欲深くなっているのが分かる。



最初は、名前を知れただけで嬉しかった。

次は、ただ彼に会えることが嬉しかった。

今は、―――。




会うと、彼を見ると、触れたいと願う。

彼は気づいていない、邪な俺の想い。


気づかれたくない。


気づかれてはいけない。




―――でも、気づいてほしい。




そんな葛藤をしてるなんて、愛しい彼は思ってもみないだろう。

それに安心すると同時に、少し切ない。




好きです




その一言を伝えたい。

でも伝えたくない。



―――ただ、気づいてほしい。




「できたか?」

ヒロさんが顔をあげた。


4つも年上だとは思えないほどかわいい人。


俺は本当にあなたが好きなんです。

誰より愛しています。

俺の“特別”を感じ取って下さい。

俺の“特別”に気づいて下さい。

そして、俺もあなたの“特別”に―――。




でも




「あの、ここが分からなくて」

「ああ、それは……」




今は、十分。
彼をこの距離で感じられる、今のままで。






今は。






end.
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