短編

□大晦日の誘惑
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退いてくださいと言う前に拒絶されてしまった。

明日はヒロさんと初詣に行きたいから、ここで盛ってはだめだ。

俺だって酒が入ってるし、こんなヒロさんを目の前にして手加減できるわけがない。

後で絶対怒られる。

かく言うヒロさんも、ただじゃれついてきただけみたいで、俺の髪を引っ張って遊んでる。俺の膝の上で。

当たり前だが、顔が近い。

当たり前のように、下半身に熱が集まってきている。

何の我慢大会だ、これは。

「のわきの髪って太いよなー」

「そうですか?」

「髪黒いよなー」

「そうですか?」

楽しげなヒロさんの言葉にも上の空な返事しか返せない。

唇が近いです、ヒロさん。

「明日雑煮が食べたいー」

「はい、作ります」

噛みついていいですか、ヒロさん。

「のわき、ちゅーしたい」

「はい、ちゅーですね。……って、え?」

まさか思考を読まれていたのか、思っていたことをヒロさんに言われた。

だめ?と小首を傾げるヒロさんに理性が吹っ飛びかけた。

相手は酔っ払いだと自分に言い聞かすが分身の方はすっかりその気になっていた。泣きたい。

「……飲みすぎですよ、ヒロさん」

「ちゅーしたい」

「ヒロさん、」

「のわきは嫌なんだ」

泣きそうな声で言われた。



……何このかわいい生き物。



我慢できなくて、ヒロさんを抱え込んで押し倒した。

ちゅ、と重ねるだけのキスをする。

いつもより唇が熱い。

そっと舌を差し入れると、ヒロさんは積極的に舌を絡めてきた。それに応えるように口づけを深くする。

「んぅっ……」

そろりと上顎を舐めるとヒロさんの口から甘い声が漏れた。



やばい。これはやばい。

もう言い訳できないくらいすっかりその気になっている。

明日絶対怒られる。

今日はやらないからな、と念押しされてるのに。

酔っ払ったヒロさんを襲いました、なんてバレたら殺される。新年早々ヒロさんを怒らせることが得策だとは思えない。

耐えろ、俺!と理性は叫ぶのだが、誘っている(ように見える)恋人に、もう止まらなかった。


「………ヒロさんのせいですからね」

「なにが?」


愛しい人のきょとんとした表情に、俺は完全に理性を失った。











次の日、何も覚えていないヒロさんから強烈な一撃を食らったことは言うまでもない。



end.
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