短編

□あなたが、さいご
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「ヒロさん」
「ん?」

ベッドの中、野分の腕の中、甘ったるい倦怠感に身を委ねている。
久しぶりだったこともあって、散々抱き合って、いつも以上になかされた後だった。

「俺ね、こういうことするのヒロさんが初めてだったんです」
「はあ?」
「だから、俺はヒロさんが初めての人で、ヒロさんしか知らないです」
「ああ……」

俺は黙るしかなかった。
もちろん、野分が初めてではない。人生どん底期を含めると、経験豊富な方だろう。

「俺、ヒロさんともっと早く出会いたかった」

ぎゅっと、野分の腕に力がこもる。
野分は、なんとなく俺の過去に気づいているだろうけど何も聞かない。
きっと話してほしいのだと思う。知りたいのだと思う。
だけど、話すつもりはない。

「野分」
「はい」

「俺の未来、全部お前にやる」

野分が固まった。
顔が熱くなる。
見られたくなくて、野分の胸に顔を押し付けた。
我ながら恥ずかしいことを言ったと思う。
でも、過去を言えないかわりに、伝えたい言葉だった。

「ヒロさん」
「………………なに」

「一生、離すつもりありませんから」

嬉しさが滲み出たような声とプロポーズのような言葉に、俺は小さく頷いた。



俺は野分の、最後の人になりたい。





end
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