短編

□おかえり
1ページ/1ページ



野分ともう一週間会ってない。
お互い仕事が大変だし、特に研修医は忙しい。
でも、声が聴きたい、一目顔がみたい。
正直、寂しい。

「野分……」

電話をしようとして思い止まる。
野分の負担になることはしたくなかった。

……本でも読むか

ソファーに座って本を開く。
小説の耽美な世界に浸りながら、いつのまにか意識を手放していた。



さらりと頭をなでられる感触がした。
そっと慈しむようになでる、大きくて暖かい手。
焦がれていた手の感触だった。

「……ん…のわき?」

「はい、ただいまです」

目の前には、ずっと会いたかった恋人の姿があって。

会いたいなんて言えないから。
寂しいなんてもっと言えないから。

だから、代わりに、


「ん、おかえり」





end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ