短編
□おかえり
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野分ともう一週間会ってない。
お互い仕事が大変だし、特に研修医は忙しい。
でも、声が聴きたい、一目顔がみたい。
正直、寂しい。
「野分……」
電話をしようとして思い止まる。
野分の負担になることはしたくなかった。
……本でも読むか
ソファーに座って本を開く。
小説の耽美な世界に浸りながら、いつのまにか意識を手放していた。
さらりと頭をなでられる感触がした。
そっと慈しむようになでる、大きくて暖かい手。
焦がれていた手の感触だった。
「……ん…のわき?」
「はい、ただいまです」
目の前には、ずっと会いたかった恋人の姿があって。
会いたいなんて言えないから。
寂しいなんてもっと言えないから。
だから、代わりに、
「ん、おかえり」
end