短編

□rely on you
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担当していた子が亡くなった。
まだ10歳だった。
一週間前、満面の笑みで花屋さんになりたい、と語っていた。
花が好きな、優しい女の子だった。
一昨日から容態が急変して、そのまま意識が戻らなかったのだ。

俺は、無力で、何もできなかった。



急に、明るくなった。部屋の明かりを付けていなかったのだ。

「うわっびっくりしたっ……いるなら電気ぐらいつけろ」
「あ……ヒロさん、お帰りなさい」

久しぶりのヒロさんの姿に、少しだけ気分が晴れる。
ヒロさんは俺の隣にどかっと座ると何かあったのかと聞いた。

「いえ、何でもないです」

いつも通りの調子で言ったつもりだったがヒロさんにはそんなの全然通用しなくて。

顔を上げると、本当に心配そうなヒロさんの顔。

「ヒロさん」

気がつくと、ヒロさんを抱きしめていた。
急に抱きしめたので嫌がられるかと思ったが、ヒロさんはじっとしていた。

大好きなその感触と、暖かな体温に少しだけ落ち着く。

あまり無理をするな、の言葉に少し腕の力を強くして。

聞いてやる、の言葉に肩を少し震わせた。

あなたに弱い所は見せたくない。
だけど、今はあなたの優しさに甘えたい。

「俺が担当してた子が亡くなったんです」

「うん」

ヒロさんのよく響く落ち着いた声。
その声に安心して、涙が溢れた。
あの子が亡くなって、初めて泣いた。
俺は、あの子を助けられなかった。
まだ10歳だったのに。
目の前で、小さな命が消えてしまった。
もっともっと、いろんな経験をさせてあげたかった。
ヒロさんは、俺のどんな言葉も、呆れたりせず、優しく真剣に聞いてくれていた。

「俺の前で我慢するな。泣きたい時は思いっきり泣いとけ」

優しい人が言った、暖かなその言葉に。
「……はい」
今だけは、甘えていたい。

「俺は、ずっとここにいるから」

そんなことを言ってくれるから。
俺はあなたにすがって泣く。



今だけは、あなたの暖かい腕に、抱かれていたい。

今だけは、あなたの優しさに、溺れていたい。




end.
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