短編

□万聖節、祈って
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「野分、おかえりー」

「ただいまです」

わしわしと頭を拭きながらヒロさんが出迎えてくれた。
どうやら風呂上がりらしい。

俺が口うるさく言ったら、ヒロさんはバスタオル一枚で行動することがなくなった。

「ヒロさん」

ぎゅっと抱きつく。

「な、なんだよ」

いつもより体温が高くて、いい匂いがした。

「昨日、帰れなくてすみませんでした」

「いや、いいよ。仕事は仕方ないだろ」

「でも、せっかくのハロウィンだったのに」

「?」

「ヒロさんにいたずらできるチャンスだっ……痛っ」

「お前が変なこと言うからだ!!」

ヒロさんは俺を殴って、腕から抜け出してしまった。

顔を真っ赤にさせてるヒロさんもかわいいわけだけど。

「それより野分、ちょっと来い」

ヒロさんに腕を引かれて、ベランダに出た。


「空、見てみろ」

「うわ……っ」

顔を上げると満点の星空が輝いていた。

「さっきぼんやり外見たら気づいて」

「すごいです」

「野分、なんか星座分かるか?」

「分かりません」

「………理系なのに」

「地学はしてませんから」

「えー?」


ヒロさんとの他愛ない会話が楽しい。
明日になると忘れているような、何でもない会話が嬉しい。


「………へくしっ」

ヒロさんがかわいらしいくしゃみをした。
もう11月で、パジャマ一枚は当たり前だけど寒そうだ。

「ヒロさん」

後ろからぎゅっと抱き込んだ。
その背中は冷えていて、もう少し早くこうしておけばよかったな、なんて後悔する。

嫌がられるかな、と思ったけど、ヒロさんは素直に体を預けてくれた。



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