短編

□甘えん坊
1ページ/4ページ





清々しい土曜日の朝。

なにもかもが輝いて見える。




―――目の前の人物を除いて。




「なんだよ野分ーため息なんかついて」

「………津森先輩…コーヒー飲んだら帰って下さいよ?」

「わかってるってー」

目の前にはヒロさんじゃなくて津森先輩。

例のごとく終電を逃した先輩をしぶしぶ家に泊め、そのせいで昨日ヒロさんはちょっとつれなかった。
俺とヒロさんは自室で、津森先輩はソファーで寝た。
久しぶりだったのに……。

そしてなぜか先輩はまだ帰らず呑気にコーヒーをすすっている。

「………早く帰って下さい」

「上條さんにおはようぐらい言いたいのにー」

「いや、いいです」

一刻も早くヒロさんと二人きりになりたい。
で、謝って、それから………。

「なんだよー。つか上條さん遅くない?お寝坊さん?」

時計を見ると、9時を回っていた。
ヒロさんにしては、ちょっと遅いかな。

「ちょっと様子みて来ます」

ガチャ。

俺が腰を浮かせようとしたそのとき、ヒロさんが部屋から出てきた。

「おはようございます、ヒロさん」

「上條さんオハヨー」

「んー」

ヒロさんはまだ眠いのか、目をこすりながら小さくあくびをした。
小さな子みたいな仕草がかわいい。

「ヒロさん、何か食べますか?コーヒー入れましょうか?」

「んー…、いや、いい」

そう言って、ヒロさんはトコトコと俺たちが座っているソファーまで来ると、俺の隣にちょこんと座った。



そこまでは良かった。



が、次の瞬間固まった。



こてん、と可愛らしくヒロさんが俺の肩に寄りかかってきたからだ。





ちょ……………

ヒロさん!!かわいすぎます!!



なんでこんなに積極的なんだろう。
津森先輩もいるのに。

いや、そんな些細なことはどうでもいいか。


「ヒロさんどうしたんですか?まだ眠いですか?」

「むー」

ヒロさんは小さく唸って、いやいやするようにぐりぐりと俺の肩に頭を押し付けてきた。




…………押し倒していいですか




いや、とりあえず人前だから止めとくか。
ああもう!!
津森先輩邪魔だな。
ホント早く帰ってくれないかな。




「おい野分……」

「なんですか?」

「お前それ全部口に出してるぞ…」

「あ聞こえちゃいました?」

何か津森先輩が睨んでいる気がするがそんな些末なことはどうだっていい。
今は目の前の幸せで手一杯だ。

ヒロさんの頭をそっと撫でると、彼はへへへとかわいく笑った。




かわいい……


かわいすぎる……




もう先輩の目の前で押し倒そうかな………




.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ