歌詞de妄想

□シルエット・ロマンス
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肌寒い季節だと言うのに、じっとりとイヤな汗をかいて目が覚めた。


原因は分かっていた。


―――嫌な夢をみた。


おでこに張り付いた前髪をそっとかきあげる。

野分が、どこか遠くへ行ってしまう夢だった。

はっきりとは覚えていない。

ただ、走っても追いつかなくて、叫んでも振り向いてくれない、そんな夢だった。

はあと大きく息を吐く。

大丈夫。
あれは夢。

隣で眠る野分を見つめた。

一緒に住んでいるのになかなか会えないのは、お互い忙しいから。
そんなことは分かっている。

特に野分は俺の倍くらい忙しい。
そんなことも分かっている。

ただ、やっぱりどうしても寂しい時がある。
そばにいてぬくもりを感じたい時がある。

近くにいないことがつらくて、近くにいられないことがもどかしい時がある。

はあともう一度大きく息をついて、野分の横に潜り込んだ。

少し体を丸めて、野分の胸にすりよる。

野分の暖かさが心地いい。

眠れるだろうかと思いつつ、目を閉じる。

ふいに、野分の長い腕に抱き込まれた。

ぎゅっと、少し息苦しいほどに抱きしめられる。

でも今は、その息苦しさが嬉しかった。

俺を抱きしめる腕が愛しい。

もう何年も付き合っているのに、抱きしめられるたびに少しどきどきして、すぐに大きな安心感に包まれる。




今はこんなに近くで野分を感じられる。

手を伸ばすと触れられる。

野分の腕の中にいる。




不安は常にどこかにある。

それを野分が消してくれる。




どうか、俺が不安なんか感じないほど、もっと抱きしめていて。





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