memo..
□あなたのにおいがする
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朝は、きらいだ。
「ヒロさん、行って来ます」
俺を起こさないように、野分は声を低くして言う。
本当は起きてる。
でも寝ている振りをする。
行ってらっしゃい、ってその一言で野分が喜ぶことを知っている。
でも、言わない。
まだ6時じゃないか
次は、いつ帰る?
本音も隠す。
それを言っても野分はきっと怒らない。
ちょっと困ったように、あの笑顔で笑うんだろう。
そんなの嫌だ。
勝手なプライドだけれど。
「ヒロさん、大好きです」
行って来ます、の後にいつも言われる言葉。
俺は、大嫌いだ。
いつも野分を奪う朝が。
ばたりと閉まるドアの音を、ぼんやりとした頭で聞いた。
朝は、きらいだ。
隣の熱が冷えていく感覚がする。
1人で寝るには少し大きなベッドで、体を縮める。
あなたのにおいがする
俺が起きるまで、この匂いは消えないで
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