memo

□抱きしめて、
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※津森×弘樹←野分?
つもひろ恋人設定





「ただいま」

「………おかえり」

下を向いて、ぶっきらぼうに出迎えた俺の恋人。

でも、ちゃんと出迎えてくれるあたりがかわいいなあ、なんて思う。

「お邪魔します」

背後から声がして我に返った。

久しぶりに見た恋人に夢中ですっかり忘れていた。

「……後ろの人は?」

怪訝そうに顰められた眉まで愛しい、なんて相当キてる。自覚済みだ。
にやけた顔を慌てて引き締めた。

「後輩の野分。終電逃しちゃって、泊めてあげてもいい?」

「……別にいいけど」

「すいません、お邪魔します」

「まあ、野分、なんもないけどゆっくり――」

野分を見て、俺は「していって」という言葉を飲み込んだ。
野分は、じっと上條さんを見つめていた。

息を呑んで俺の恋人を見つめる野分に、俺は連れてきたことを激しく後悔した。その辺の道路にでも転がしておけば良かった。


――熱の籠もった瞳。


その瞳が何を意味するのか、嫌でも分かった。
俺と同じだ。
初めて俺が上條さんを見た時の目だ。

「上條弘樹です」

あからさまな野分の視線にも気付かず、上條さんは普通に野分に挨拶した。

「あ、…の、草間野分です。よろしくお願いします」

丁寧に頭を下げた野分は、上條さんに笑みを向けた。ずっと一緒に仕事してる俺もみたことがない、甘ったるい笑み。

「上條さん」

「わっ、ちょっ…」

目の前の光景に耐えきれなくなって、野分から隠すように上條さんを抱きしめた。あたふた暴れてるけどそんなの無視だ。

「……久しぶりなのに、2人きりじゃなくてごめんね?」

「……っ!!」

耳元でそう囁けば、上條さんは顔を真っ赤にして、バタバタとリビングの方に消えて行った。

もう何年も付き合っているのに、そんなウブさも好きな所だったりする。

上條さんがいなくなった玄関で、俺は表情を殺して野分を見上げた。無駄に高い身長に腹が立つ。


「――俺のだから、手ぇ出すなよ?」


野分はちょっと目を見開いて、苦笑をもらした。

「バレてましたか」

「当たり前だろ、あんな目で見やがって」

感情の読めない表情にイライラしながら言った。

「……何もしませんよ」

静かな野分の声に、俺は眉を上げた。

「何もしませんよ。――上條さんが幸せなら」

俺は野分を睨みつけた。
つまりこの男は、上條さんを悲しませようものなら、容赦なく奪うと暗に言っているのだ。

「心配ねえよ。俺がいるから」

吐き捨てるように言った。

ちょっとずつ、ちょっとずつ距離を縮めて、ようやく手に入れたんだ。手放す気など毛頭無い。

「分かってますよ」

爽やかな笑顔を浮かべる後輩に油断ならない、と強く思った。








「ごめん。急に連れてきて」

「別に良い」

野分は俺の部屋に押し込めて、上條さんの部屋に無理やり入り込んでいた。

「久しぶりだね〜」

「そうだな」

先ほどまでの野分とのやり取りなど無かったかのように、軽い口調で言えば、コクリと頷いてくれて、思わず口元が緩んだ。

「にやけるな。きもい」

「うわっきもいとかひどい」

泣きまねをして、どさくさで抱きついた。
また暴れるかな、と思ったけど、予想に反して大人しくて少し驚く。

「………寂しかった」

ぼそりと言われた言葉に更に驚いた。驚きすぎて、思わず体を離した。

上條さんは言ってからしまったと思ったのか、みるみる顔を赤くしていった。

そんな様子もいちいち可愛くて、愛しくて。

もう一度強く抱き寄せた。

「上條さん。……弘樹」

「………………なに」

「大好き」

「………俺も」

そんな言葉と共に回された腕に、堪らない気持ちになった。

どうして、この人はこう―――。



誰にも渡さない。野分にも、だれにも。



「……弘樹」

「うん?」

「…したい」

「や、……でもお前の後輩いるんだろ」

本当は我慢するつもりだった。

野分に、上條さんのあの艶っぽい声が聞かれるかもしれないと思うと今すぐ刺しに行きたくなるのだが、同時に牽制にもなるかな、なんて思ったり。

「ごめん、我慢できない」

愛しい愛しい恋人に、そっと唇を合わせた。





おわり.

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