memo

□一歩ずつの恋
1ページ/1ページ

※篠田×弘樹
友達以上恋人未満風。
原作のあの後2人がいい感じになっていたら…みたいな駄文。







「上條くん」

本を読んでいた青年に声をかけると、彼はほっと息を吐いて、口元を綻ばせた。

「篠田さん」

そうやって、最近穏やかな笑顔を向けてくれるようになった君を、俺がどう思っているかなんて、君は知らないんだろう。











一歩ずつの恋









最近よく会う男がいる。

出会いは最悪だった。その後も最悪だった。

それでも最近会っているのは、絆されたからだろうか。それも違うような気がしたが、深く考えることは止めてしまった。

今の付き合いは、かなり健全だ。

会ってすぐお持ち帰りされたことも、無理やりキスされたこともかなり昔のことに感じる。

忘れたわけではないが、受け流せる過去になっているのは事実だった。






「最近どう?」

「まあ、ぼちぼち…」

俺はコーヒーに手を伸ばして、目を伏せた。

最近どう、といつも聞かれる。いつも曖昧な返事をしている。

もっと気の利いたことを言えるような気がしたが、気を遣うのも馬鹿らしくなって気にしなくなった。

その証拠に、目の前に座る男は目を細めてにこりと笑っただけだった。

「篠田さんはどうですか」

「仕事も調子いいし、いい感じ」

「そうですか」

なんて愛想のない大学生だろうと自分で思う。

それでも定期的にお茶に誘われる。それを嫌だと思わなくなったことも不思議だった。

「それに、最近好きな子が笑うようになった」

さらりと言われた言葉に、心臓が跳ねた。

自意識過剰でも何でもない。好きな子とは俺のことだろう。

そんな風に見つめられたら、堪らなくなる。

すっとぼけるこっちの身にもなって欲しい。

「……そうなんですか」

カチャリとコーヒーカップをテーブルに置いた。

「そう。最近距離が縮まった気がして嬉しい」


――俺もです


そう言いかけて、ぐっと唇を噛んだ。

距離が縮まって嬉しいと思っている。向けられる好意も、―――。

報われない片想いをしている。幼なじみの男に。今でも、だ。

でも、最近はそれが変わった。

あいつでいっぱいだった俺の中に、確かに、この男が存在し始めているのだ。

「今日、うちに来ない?」

僅かに緊張を孕んだ声で、篠田さんが言った。

これも、いつからだったかいつも言われるようになった。

いつも俺の返事はいいえだった。

そのたびにこの男は、「分かった」と少し寂しげな表情をして引いてしまう。

どうしてもだめ?、ともう一言言われると、俺はきっと頷いている。

自分で断っておいて、焦れったく思う。

あのときみたいに、強引に迫ってくれたら俺は落ちるのに、と。

「………上條くん?」

いつまで経っても返事をしない俺にしびれを切らしたのか、篠田さんが声を上げた。

「……いいですよ」

うるさい心臓に気づかない振りをして言った。

「えっ…?」

驚きに目を見開く顔がおかしくて、思わず笑いそうになった。
こんな表情始めて見たかもしれない。

「いいですよ、家に行っても」

何だか勝った気がして、俺は悠然とコーヒーカップを持ち上げた。
何に勝ったか、そんなの知らない。そんな気がしただけだ。

「ありがとう」

顔を上げると、篠田さんは笑っていた。

ありがとう、とそう言われた。

「……何のありがとうですか」

「神に感謝」

「はあ?」

「俺の好きな子が可愛すぎて、どうしたらいいか分からない」

「……馬鹿じゃないですか」

「うん。そうかもしれない」

そんな目で俺をみないでほしい。

きっと今、耳まで真っ赤になってる。

「今日、俺好きな子に告白するよ」

「………たぶん、いい返事がもらえますよ」





きっと明日には、この関係が変わっている。









おわり

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ