memo..

□いとおしい人よ
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空を見上げれば、青。


どこまでも広がる、青。



吸い込まれそうな青空に指を伸ばして、少しだけ目を細めた。

あれは、いつの会話だったか。

確かあの日も、こんな青空。








いとおしい







「野分」

「はい?」

「空……」

一言呟いたきり、ヒロさんは何も言わなくなってしまった。

ヒロさんがただじっと見ている空に、俺も目を向けた。

「小さい時に」

唐突に、ヒロさんは口を開いた。

「小さい時に、雲を食べてみたいと思ってた」

「綿菓子みたいですよね。俺もちょっと考えたことあります」

「空の青さが好きで」

ヒロさんはそこでふっと言葉を切ると、口元に少しだけ笑みを浮かべた。

「描いてみたいと思ったけど、どうしてもあの色にはならないんだよな」

俺は何も言わず、ただヒロさんに手を伸ばした。

そっと頬に触れた指は、振り払われることはなかった。

「ヒロさん」

「うん?」

「好きです」

「………ばーか」

何の脈絡もない愛の言葉に、ヒロさんは頬を赤らめて俯いた。

脈絡のない愛の言葉だけど、愛しいなと思う気持ちに嘘はない。
初めて会った時から少しも揺らぐことなく、俺の気持ちは大きくなるばかりで。

「好きです」

一点の曇りもない俺の気持ちだ。


―――ちょうどこんな空みたいに。


そんなくさい台詞を言うつもりなどないけれど。

ストレートな愛の言葉の方が、照れはない。

それほど当たり前に、紡いできた。

「ヒロさん、好きです」

「……知ってる」

小さな声でぼそりと「俺も」と続けられた言葉は、きっと気のせいではなく。

照れ屋な恋人は、真っ赤になっていた。









「……野分、こんなとこにいたのか」

「津森先輩」

屋上のドアが開いて、津森先輩がそばまでやってきた。

「何してんだ?」

「空見てました」

「寝不足の目には青空が痛いな。……うわー、すっげえ晴れてんな」

「津森先輩は、青空を見て何を思い出しますか?」

「何だ。謎かけか?」

津森先輩はふわあと大あくびをした。

「いえ、ただ聞いてみただけです」

「なんだそれ」

「俺は、」

「ん?」

「ヒロさんを思い出します」

津森先輩はまたヒロさんか、と苦笑いしただけでそれ以上何も言わなかった。

「……空、ヒロさんも見てるかな」

小さく呟いた独り言。



「野分、仕事だ。休憩終わり」




見上げた空に元気を貰った。

青色の向こうに、大好きな笑顔を思い浮かべて。







end.

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