中編

□それは、愛故に
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「彼女が浮気しててさあ」

「え、マジで」




耳に飛び込んできたのは、研修医仲間のそんな会話で、思わず耳を傾けた。



「それで、お前どうしたの?」

「別れた」

「へえ」

「浮気したのはあっちだってのに『ずっと仕事仕事って、私だって寂しかったの!』って逆ギレされてさあ」

「彼女の言い分も分からんではないけどしょうがないよな」

「そうなんだよ。でも、こっちだって寂しいけどさ、仕事に忙殺されてるのは事実なわけで」

「まあな」

「それで、寂しい思いさせてたのはこっちだし、俺もあんまり強くいえなくて」




会話の内容にドキリとした。

ヒロさんは寂しいとか、あまりそういうことは言わない。

でも、きっと寂しい思いをさせてしまっていると思う。




「草間はどうなんだ?」

「……えっ?」

「年上の恋人いるんだろ。何も言われねえの?」

「『自分の仕事はきっちりこなしてこい』って」

「いいねえ。理解のある恋人で」


やっぱり年上のお姉様がいいのかなー、なんて真剣な顔で盛り上がり始めた同僚たちに適当に話を合わせておいたが、思考はヒロさんのことに全部持っていかれていた。




………寂しい、…だろうな。

俺がいない時、あの家で一人で何してるんだろう。

浮気はないと信じている。

が、考えたくないことだが、もし―――万が一他に好きな人ができたとか言われたら、俺にヒロさんを引き止める権利はあるのだろうか。


そんなことできる立場じゃなくても、手放すことなんてできないだろうけど。



「草間先生急患です」

「はい」



鬱々とした考えは、目まぐるしい忙しさの中でいつしか埋もれていった。





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