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□姉離れ
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エルベ離宮

キンッ キンッ ヒュッ キンッ


「…はっ!」


ガッガッガッ!

「くっ…!」

ガン! ドッ


「あ……」


「…一本、ですね」

パチパチパチ!


今日はエルベ離宮でユリアさんに剣の手解きを受けている


最初の打ち合いから最後に木剣を弾き飛ばされるまで私は完全に遊ばれていて全く歯が立たなかった

更に離宮には一般市人の方々もいて、こうも惨敗だと流石に立つ瀬が無くなる


「…はあ、まだまだ、未熟者ですね…」

「そう悲観なさらずに、…どちらかというと貴方の本分は導力魔法でしょう、…アーツで貴方に勝てるとは私も思いませんよ」


「そんな…、それよりもう一本…お願いします」


「大丈夫ですか?、1回休んだ方が宜しいのかと?」


「いえ、折角の機会ですから、立てなくなるまでお願いしたいのですが…」


「……」
(こんな所まで似なくてもいいのに…)

「あの…、駄目でしょうか?」


「あ、いえ、ではもう一度やって一旦休憩にしましょう、休む事もまた大事ですから」


「…判りました」


「では…」


「はい…」



互いに剣を構える

観客の息を呑む音が聞こえた気がした
どう踏み込むか思案を巡らせていた時


「きゃーーー!」


「!」


「何事!?」


観客から悲鳴があがり、視線の先を見て見ると


「…情報部の、軍用犬!?」


「あの犬共か…」


クーデターの時に使われた軍用犬だったが、野生化し、より凶暴になっていた


「ガアアァアア!」「グルルルル…」「ウゥゥ…」


「きゃーー!」「うわーー!」「魔獣だーー!」


突如現れた魔獣に市民の方々は皆動揺、混乱しているようだ

「ガアアァアア!」

先頭の1匹が私に飛びかかってくる


「…はっ!」


底威力のアーツを放ち、魔獣を牽制する

「ゥガッ!」

「はあ!」


ガシュ!


直撃し、動きが止まった所で真剣に持ち替えたユリアさんが切り捨てる

市民の方の混乱も収まっていた、魔獣を1匹討った事で多少は安心出来る材料を見つけたのだろう


「皆さん!、開いている部屋に避難して下さい!

それと通信機で軍へ通報をお願いします」


このまま居られては危険であるため、非戦闘員の方には避難と通報をして貰おう
案の定、自分も戦うという人間は現れなかった、そちらの方が有り難い


「…クローゼ、下がっていた方が宜しいのでは?」
「何を言いますか…、私にもお手伝いをさせて下さい」


「…全く、こんな事になるのならジークも連れて来るべきでしたな」


「そうですね、っ!、来ます!」


「では、援護をお願いします!」


「はい!」



















半分程片付いただろうか、20はいた数が10程度まで減っている


「…少々、疲れますな…」


「流石に…数が多過ぎますね…」


「ひっく…お母さーん」


「なっ!」


「え…?」


迷子だろう、小さな女の子が歩いていた、母親がいない不安からか周りの様子に気づくのが遅れたようだ


「ガア!」

「きゃあ!」


勝機の見えない魔獣には格好の餌食であった、私からは遠くてどうにも出来ず、ユリアさんに任せるしかなかった


「ガアアァ!」


ドシュ! ドシュ!

鈍い音が響いた


「ぐっ!」


女の子に怪我は無かった、だが代わりに庇ったユリアさんの背中を魔獣の爪が切り裂いた


「っユリアさん!」

「私、よりも…この子を…」


「くぅ…!」


オーブメントを駆動、最大範囲のアーツを発動させる


「コキュートス!」

瞬間、残りの魔獣は凍てつき、呆気なく砕け散った


「見事で、す…」


ドサ


「ユ…ユリアさん!」






























「ええ、魔獣の急襲を、」

「はい、民間人の被害は無しで、ユリア大尉が負傷です」


「…はい、大丈夫です、はい、宜しくお願いします…シード中佐…」


ツーツー ガチャ


「………」


軍への報告を済ませると、急ぎ足で部屋まで戻る、目を覚ましているかと淡い期待をしながら


「…」


だけど、そこにいたのは浅い呼吸を繰り返す未だに意識が無いユリアさんだった

(とりあえずは大丈夫そうだけれど)


不安で仕方なかった最悪の結末だけが脳内を巡る
自分に言い聞かせなければ平静を保てそうもない
思い知らされた

この人を失うのがこんなにも怖いのだと

(熱が上がってる…)


負傷による発熱のメカニズムは知らないが、良くない事なのは何となくだが判る

私はなんて無力なのだろう


目の前で大切な人が苦しんでいるのに


傍で泣くしか出来ないなんて


「うっ、…くぅ!、ひっく、はぁ…!」

何が次期女王だ
何が王太女だ


結局私は何も変わってはいなかったんだ

そもそも私が最初から強力なアーツを使っていればこんな事にはならなかった

駆動時間はユリアさんが充分に稼いでいてくれた

何故やらなかったか 自分ですぐに答えは出た

私は剣でユリアさんに認めて欲しかった
そんなつまらない子供みたいな感情がこんな結果を生んでしまった

もう、剣など捨ててしまおうか

そんな考えが一瞬頭をよぎった時


「…クロー…ゼ」


「……ユリアさん?」


聞き間違いかと思ったユリアさんの目はまだ開いていない

それでも

「そこに…居られ…ましたか…お怪我は…?」


なんで

そこまで私のことを 私が貴方を傷つけたのに


「どう、して…?そんなに私を…?私の我が儘で、愚にも付かない思いで、そんなになってまで…、どうして私を…?」

声が聞こえていたかも判らない

ただ、手が、私の頬に優しく触れる

「あ……」

理解した

その手に私が望んでしまった物が全て詰まっていた事

私もまた、同じように思われていた事

私はただ、その手に縋り、無様に泣きじゃくる事しか出来なかった



私はまだ、姉離れが出来ないただの子供だったのだ









































2週間後


「怪我は本当にもう大丈夫ですか?」


「ええ、絶好調です」


「…判りました…では」


「アーツ禁止、一本勝負…始めましょうか」



結局、私はまた優しさに甘える事となった

でも、今度は自分に1つ約束をした


近い将来、今までに貰った物を倍にして返す


それを成す為には今はまだ姉離れをするのは早すぎる



「っあ!」


「ふっ、一本です」


取りあえず目先の壁は一本取ることですか…

























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