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□雨降る宵に
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午前2時


「……なんで、こんな時間に…」


時計が示す針が2時を少し回ったところで目を覚ましてしまった
外はおそらく土砂降りの雨で、雨粒が窓を叩く音が絶え間なくする


「…何か飲み物は…」


私は夜中起きてしまった時によくある喉の渇きを潤すため、もそもそと布団から這い出た


「…あ…そうだ、確か、何も無かった筈です…」


無視して寝てしまっても良いが何となく嫌なので傘を差して城の中へと向かう、













「…水で良かったかも…」


傘まで差して城の中まで入って漸く気付いた


「やはり寝起きは頭が回りませんね…」

ここまで来て帰るのも無駄な気がしたから取りあえず厨房に向かう、なにかあると良いですけど…






















「…んくっ、んくっ……ふう…」

牛乳をもらい、目的を果たして帰ろうと厨房を出ると何やら人影が見える
外には門番の方がいるが中に人がいるというのは開閉係意外にまずない


「…あの…」


不審に思って話し掛けてみる、何時でも傘で攻撃出来るよう身構えて


近くで見たら不審者はずぶ濡れで体型から女性だと判断出来た

こちらを振り向いた顔を見て、私は傘を構えるのみ止めた


「……クローゼ?」

「ユリアさん…どうしてそんな所で濡れ鼠に……?」


「は、いえ、残業を終え家に帰る途中で土砂降りになりましてですね……」


「それで家より近いお城に帰って来たと……、災難ですね、少し待ってて下さい、タオルと適当な着替えを取ってきますから」


「…ありがとうございます」












「…ごめんなさい…タオルはありましたけど着替えの類はありませんでした」


「いえいえ、汚れさえ取れれば雨足が弱まった時に特攻出来ますから」


「…でも弱くなるどころか強くなってますよ、雨足」


外は見えないが音は先程よりも増しているように聞こえる、これは止むとはとても思えない


「…ふむ……」


「…詰所で休みますかな」


「そんなずぶ濡れでは風邪を引いてしまいますよ!、取りあえず私の部屋に来て下さい、お風呂と着替えを貸しますから」


「い、いえ、そこまで迷惑を掛ける訳には…」


「風邪を引かれて仕事に支障が出る方が私は迷惑ですよ?」

「うっ……」


「行きましょうか、途中は相合い傘ですが我慢して下さいね?」














「お湯加減はどうですか?」


《ええ、極楽ですね》


「それは良かったです、濡れた服は洗濯しておきますので今日は私の服で我慢して下さい」


《ええ、了解しました》


「あ、あとお風呂のお湯はそのままでお願いしますね」


私も多少雨に打たれちゃいましたから、流石に土砂降りの中傘に2人は無謀でしたか


《判りました、後で入られるのですか?》


「ええ、そのつもりですよ」


《なら今一緒に入ってしまった方がよろしいのでは?》


「……」


聞き間違えでしょうか?


「あの…ユリアさん…いま何と?」


《は、いえ…一緒に入ってしまった方が経済的かと思いまして…》


聞き間違えでは無かったようです


「いや、でも2人は流石に狭いでしょう?」


《いえ、いけると思いますよ?》


うー……まあ小さい頃もよくお風呂に入れてもらってましたし…


手早く服を脱ぎ、バスタオルを巻く、流石に……ね?



「……では失礼しますね」


ガラガラ


中からはモワッとした熱波が流れ出る

湯船の中にユリアさんがいました、やはりバスタオルを巻いています、やっぱり怒られたくは無いですから


「お邪魔しますね」

「ようこそいらっしゃいました」


イスに座り、適当にシャワーで体と頭を濡らし、シャンプーのボトルを手に取ると


「クローゼ、少し貸して下さい」


「?、どうぞ」


ユリアさんはシャンプーを手に出すと手を伸ばし私の頭で丁寧に泡立ててきた

狭いですから湯船からでも手は届いちゃうんですよね


「な!……ユリアさん何を……」


「おっと、大人しくしていて下さい、……少し昔を思い出しまして、よく頭を洗ってあげたものですね」


「懐かしいですね……」


多少乱暴だが細くて綺麗な指で頭を洗ってもらうのが子供の頃は大好きだった


(…いまでも多分同じですね)


「…これくらいですか?」


「ええ、ありがとうございました、おかげで懐かしい気持ちに浸れましたよ」


「それは良かったです、それでは…流しますよ」


ジャーーー


「…っひゃあ!!」

冷水を頭からダイレクトに浴びせられる
勿論


「……っくっくっ!…」


ワザとです


「……ユ〜リ〜アさん…冗談がすぎますよ…」


「くっ、ははは!、申し訳ありません!…………ぷ、くく…」


「むー、もう知りません……」


むくれて流す作業を再開する、今回はお湯の温度に気を付けながら









「ふう…」


「?、体はいいのですか?」


湯船に入ろうとする私をみて尋ねる


「ええ、一度洗ってますから、流すだけで大丈夫です」


そう言って私はお湯に浸かる、狭いので体育座りで


「……ふ〜」


体が芯から温まる感じがする、やっぱり家のお風呂だと落ち着きます


「いやいや、先程はすみませんでした」

「全くもう…びっくりしましたよ」


「ははは、まあこちらはそれが目的ですし」


「もう……ってユリアさん顔赤いですよ?」


「先程からずっと浸かっていますから、少しのぼせた様です」


「湯あたりで倒れないで下さいよ?」


「その時はクローゼが介抱して下さい」

「そういう問題じゃありませんよ、上がらなくていいんですか?」


「あなたと入るのも久々ですから、簡単に上がるのも勿体無いと思いまして」


「それで体を壊したら元も子も無いですよ?」


「ですからその時はクローゼが介抱して下さいね?」


「……全くもう…」


この人はたまにこうだ


強くて、凛々しくて、でもたまにこんなに可愛くて


(ずるいですよ…)




結局、私は格好良くて可愛らしいこの人には勝てないと思いました












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