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□子猫日和
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晴れ間が広がりポカポカとした気持ちのいい昼下がり
昼食を終えまた気分新たに頑張るかと思っていた矢先


「子猫を拾ってしまいました」


「……はい?」


「ご覧下さい」


「………〜」


スピースピー


いきなり部屋に来たかと思えばいつも身に着けている帽子の中からタオルにくるまれた眠った子猫が顔を出した


「…可愛い…」


まだ生後間もないのだろう

小さな手足、柔らかな体、灰色の毛並み、無防備な寝顔

人間の保護欲を掻き立てるには十分過ぎる愛らしさがその小さな体に詰まっていた


「一体この子、どこで拾いました?」


「街道で見かけまして、魔獣に襲われる可能性があったので連れてきました」


「街道ですか…大冒険でしたね」


「それで遊撃士協会に飼い主探しを相談しようと思いましたが…」


「後回しにされましたか…、遊撃士の皆さんは多忙ですから、…私達でどうにかしましょうか」


「え…、よ、宜しいのですか?」


「ええ、それに、それを見越して私の所へ来たのでしょう?」


「……お見通しでしたか…」


「これでも一応王太女ですからね」


「ですが本当に宜しいのですか?、公務があるのでは」


「今日は大した仕事は無いので大丈夫です、飼い主探しですよね?、微力ながらお手伝いしますよ」


「……感謝します」













「………はあ…」


「どうしましょう………」


子猫の飼い主を知る人物はすぐに見つかった、世界的に有数の富豪の家にいたらしい

住所も教えてもらい、この件は解決かと思われたが

その飼い主と家族が発した言葉はあまりにも厳しい、モラルや常識を疑う言葉であった




「新しい猫を飼ったからいらない………その猫は飽きたからもういらない…」


「…ふざけている…!」



説得を試みたけれど、金に溺れた人間とは根本的な所で話が合わず、半端追い出されるように帰らされた



「…私が立場を明かせば…」


「圧力をかけて無理矢理に飼わせても待つのは不幸のみです、……ここは新しい飼い主を探しましょう…」


「そう…ですね…、ねえ、もう少し待ってね…、きっと…良い人見つけるからね」


「ウニャ?」















〜3日後


「うりうり……」


「ゴロゴロゴロ……」


「大分懐かれていますね」


「そうですか?、でも寝るときはユリアさんとでないと駄目みたいです」



私達は遊撃士協会に依頼を出した後、互いに1人で世話を出来る自信が無いのと、この愛らしい物体から離れなくなかったので、私の部屋でユリアさんと一緒に子猫の世話をする事になった



「みゃあ〜」


「あ…、取られてしまいました」


「ユリアさんの帽子がお気に入りみたいですね」


「はい、ボロボロになってしまって1つ買い直す次第です」

「それは…お気の毒に…」


「まあ粗相をしないだけまだマシですが」


「ええ、よく躾られていますね」


「…あんな飼い主でも躾はキチンとするのですね…」


「…ええ」


「………」


「…今日は…もう休みましょうか」


「あ、はい…、ほらおいで」


「みゃっ」


「よいしょ…」


「あ…っと、すみません」


シングルのベッドを2人+1匹で使うというそれなりの無茶だが、互いに気を使い、ベッドの譲り合いになってしまったので、結果今の形に収まっている


「…明日こそ…」


「はい…見つかるといいですね…」


自分たちで育てられたら一番いいのだけど、それが出来ない大きな理由があった

私達はどちらも仕事の都合で外にいる時間の方が長い
その間、まだ小さいこの猫を孤独に晒すのは酷であると判断した

だが、自分たちで育てられないからこそ、この子を絶対に幸せにする義務がある

「…おやすみなさい…」


「…はい…」

















「……ん…」


意識が朦朧とする寝起き、反射的に隣を確認するが姿はなく、微かな温もりが残された
まだ働かない頭で考えた結果、恐らくはいるであろう台所に、のそのそと足を運ぶ


「あ、起きましたか、おはようございます、ユリアさん」


「……今、…何時…?」


「今は…6時半ですね」


「…お早い…起床ですね…」


「学園の頃の習慣がまだ抜けなくて…、今朝ご飯作ってますから、準備しちゃって下さいね?」


「…ぐー…」


「……てい」


ピト


流水で冷えた手を頬に軽く付ける
寝起きの人にはちょうどいい刺激みたいで


「ひゃう!?」


「準備しちゃって下さいね?」


「みゃあ〜」


「あら、おはよう」













朝食を終え、これからまた忙しい1日が始まると実感し始めた時


ジリリリリリリ


ガチャ


「はい、リベール王室です」


「あ、エルナンさん…はい…はい」


「どうしたんだろうな?」


「みゃ?」


「ええ…え、本当ですか!?」


「?」


「判りました、すぐに伺います…はい、失礼します」


ガチャ


「…どうしました?」


「引き取り手が見つかったそうです!信頼の置ける方だと!」


「おお!、見つかりましたか!」


「ええ!、それで、今遊撃士協会にいらしているそうなので来てほしいと…ユリアさん?」


「…………」


「…気持ちは判りますけれど…」


「…ええ…大丈夫です」


「みゃあ?」


「…行きましょう、それがこの子の為です…」


「ええ…」















「リシャール大佐!?」


「カノーネ!?、何故貴方が…!?」

「だから…もう大佐ではないのだか…、まあいい、《影の国》以来だね、御二方」


「…フン、何処にいようと私の勝手でしょう」


「カノーネ君…」


「…申し訳ありません、閣下」


「…閣下でもないのだかな…」


「殿下、彼等がお話した引き取り手の方々ですよ」


「え、リシャール…さんが!?」


「なんと…」


「みゃあ?」


「おや…その帽子の中で丸まっているのが…」


「はい、そうです」

「これは…使えるかもしれないですわね…」


「「…使う…?」」


「…カノーネ君」


「も、申し訳ありません…所長…」


「使うとは一体どういうことですか?」

「納得のいく説明を要求します」


「い、いや、変な意味ではなくてな、私達が会社を興したのは知っているね?」

「はい、存じております、調査会社R&Aリサーチ…」


「そう、その会社のマスコットとして、その子猫を…という訳だ」


「…話は判りました…」


「…正直、あまり気持ちのいい理由ではありませんね」


「…自分も同感です」


「な…!?」


「いいんだ、カノーネ君」


「…顔も知らない人間ならば、断っていたでしょう」


「………」


「でも、《影の国》事件でリシャールさんという人間を私は理解したつもりです」


「ふむ…」


「ですから…条件付きで、預けましょう」


「……」


「みゃお?」
「なるほど…して、条件とは?」


「簡単です、まずは長時間1人にしないことです」


「ふむ、大丈夫だ、私が居なくてもカノーネ君が常に在中している」


「次に…そうですね、2月に一度、現状を手紙で私達に教えること」


「…まあ、いいでしょう」


「最後に…」


「ああ」


「殿下…」


「…愛情を持って、育ててあげて下さい」


「…承知…我が剣に誓い、必ず守り抜こう」


「…では、ユリアさん、お願いします」

「…はい」


「みゃお?」


「…元気でね」


「どうぞ、宜しくお願いします」


「ああ」


「それと…これを、その子のお気に入りです」


「君の帽子か…判った、預かろう」


「では、参りましょう、所長」


「そうだな、…では、失礼するよ」


「はい、見送りは私達も時間が無いので…行けませんが、お元気で」


「君達も、《空の女神》の加護を」


「じゃあな、カノーネ」


「フン、…猫を見に来るなら…何時でも来なさい…」


「え…」


「さあ!行きましょう所長!」


「うお!、お、押さないでくれ!カノーネ君」


バタバタバタ

ガチャ!


「…では、私達も」

「…ええ、感謝します、エルナン殿」


「いえ、お気になさらずに」


「では、失礼しますね」









王都市街


「…今度、会いに行きましょうよ」


「…そうですね、でも、その前に何か忘れている気が…」


「「………あ」」


「ジークです!」


「そ、そういえば…ジーク!何処ー!」

「………」


「多分、拗ねています」


「早く見つけて宥めないと…、本気で忘れてましたね」


「そんなものです、多分…」

















「ピュー…」


「ジーク…だから私は君の言葉は判らないのだよ…」


「どうしたシード、まだ愚痴られているのか?」


「ええ…、全くどうしたんでしょう?」

「まあ、その内殿下かユリアが迎えに来るさ、それまでの辛抱だ」


「ピュー…」











 
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