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□理想的息抜き法
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「ふぅ…」

お昼過ぎ
忙しかった公務も一段落し、これからの短いが貴重な自由時間をどう過ごすか思案を巡らせていた時

コンコン


「はい、どうぞ」


カチャ

「失礼します、殿下にお客様がいらしております」


「え?、私に?、珍しいですね」


この城を訪れる客は大体は軍関係者か祖母様に用がある人だから、お祖母様に比べ、大した権力も無い私に用がある人は極めて少なかった



「そうだ…お名前は?」


「はい、確か」
バーン!

「やっほー!クローゼ!久しぶり!」


「…エステルさん?」



















「それは…」


「そういう事よ、…まったくあいつは…」


エステルさんが王都に来た理由は私の想像の斜め上を越えていくものでした


「ヨシュアさんがそんな事を…」


「そうなのよ、あいつが¨偶には羽伸ばしておいで¨って…まあ、ありがたいっちゃありがたいんだけどさ」




「ヨシュアさんらしいですね…、あ、でも大丈夫なんですか?ロレント支部は?」


「最近はあんまり大きい仕事は入ってないからね、でもあんまり穴開けるワケにもいかないから日帰りの1人旅よ」


「でも珍しいですね、ヨシュアさんが一緒にいないなんて」

「…何となく見当はつくけどね…」


「?」


「あ、ほら私って釣りが趣味だけどヨシュアは違うのよね、で、釣りって趣味じゃない人にはつまんないじゃない」


「ああ、何となくは判ります」


「だから最近釣りはあんまりしなかったんだけど…」


「…見抜かれてましたか…」


「そう、だから暗に¨釣りやってきな¨って意味だと思うのよ」


要はヨシュアさんは自分に気を使う事なく釣りを楽しんでほしかったからエステルさんを王都によこしたのですか


「…想われてますね、エステルさん」


「……そう、かな?」

「ふふ、そうですよ」


「それで、やはり釣りを?」


「う、うん、グランセルのヴァレリア湖にヌシがいるって聞いたから王都に来たかんだからね」


「ヌシ…?」


「あ、良かったらさ、クローゼも来ない?」

「…え?、いいんですか?」


「うん、飽きたら戻ってもいいし、…あ、お仕事は大丈夫なの?」


「仕事はちょうど一段落つきましたから、大丈夫です」


「そっか、だったら行こうか!」


「はい、お供しますね」
一旦ホテルに寄り、荷物をとった後、私達は王都のヴァレリア湖の上でボートに乗っていました



ボボボボボ
ガチャ!


「よし、ここらへんね」


「…かなり深い所ですね、底が真っ暗です」


「あ、頭は出さない方がいいわよ、肉食の魚が食らいつくかも…」


「きゃ!?」


「…ゴメン嘘」


「び、ビックリしました、もう…」


「あはは!ゴメンね!、お詫びにハイこれ、ヒマ潰しにでも」


「…竿と、餌?」


「うん、入門用の竿と小さい魚の餌、私も釣公師団の一員だからね、釣りの魅力を世に広める義務があるのよ」


「そ、そうですか、ではありがたく…」

「んじゃ、ぼちぼちやりましょう!」














「エステルさん!、釣れました!」


「うんうん、なかなか筋が良いわね、教えた甲斐があったわ」


私はエステルさんに釣りの基礎を教えてもらい、小さいがそれなりの数を釣り上げている
一方


「エステルさん…」

エステルさんは先程から竿が微動だにせずにいた、これはなかなか…気まずいものが…


「ま、これも釣りの醍醐味よ、おしゃべりしながら大物を待つのも、また一興よ」


「なるほど…、流石は爆釣王ですね、言う事が深いですね」

「ふっふっふっ、恐れ入ったか!」


私達は下らないおしゃべりを数十分続けた後、不意にエステルさんの竿に異変が

グググ


「む…」


「これは…」


「……よし、」


「………」

ググ

グググ

雰囲気が一変
最早、戦闘のそれとなんら変わりない、肌を刺すような空気が場を支配する

ググ
バシャ!


「………いま!」


空気が静から動へと移る
それは素人目でも判る程の熾烈を極めた戦いであった
私はただ、息を呑むだけしか出来なかった


「……このぉ…!」

エステルさんの持つ竿が限りなくしなるそのしなり具合が獲物のサイズを知らしめていた


そして魚影が、遂に私の目に映る


「…大きい…」

バシャ!バシャ!

軽く私の倍はあるであろう魚影が、釣られるまいともがく姿は、限りなく力強い、見事な様だった



…まず、これ魚ですか?


「むう…、…あ!」

ブチッ!という音と共に、魚影が深くえと沈んでいく
糸が切れたと理解するのに、数秒を要した


「…これも、釣りの醍醐味よ…」


「…はい」



その後、エステルさんはヌシを諦め、小型中型の魚を私と共に、2時間程釣りに没頭していた

そして
















夕方


「徒歩で帰る!?」


「うん、修行を兼ねてね、大丈夫よ、手配魔獣の情報もないしまだ明るいしね」


「止めても無駄ですから止めませんけど…、せめて無事に帰れたら連絡を下さいね?」


「あはは、了解、必ずね、…それよりさ…釣り、どうだった?」


「?、楽しかったですよ、またしたいですね」


「…それが聞けて嬉しいわ…」


「?」


「…そろそろ行くね」


「…はい、今度また釣りを教えて下さいね」


「モチのロンよ!、次こそはヌシを見せてあげるわ!」


「ふふ、ヨシュアさんにも宜しくお伝え下さい」


「うん!じゃあねクローゼ!これから頑張ってね!」


「…え、あ…はい!、お元気…で…」

ダダダダダ!








「…もう、見えない…元気ですね…」


「………」


(…頑張れ…か)



恐らくは無意識下の大した意味のない挨拶程度の言葉だろう

でも


大切な友人の、一言だけで


明日からまた再開される忙しい日々を


クローディアとしての毎日を


挫けずに乗り越えられると感じてしまうとは


我ながら笑える程、単純である



(うん…、…頑張ります)



踵を返し、城へと帰る


理想的な息抜きが出来たことに、心からの感謝をしながら…

帰り道に見た夕日は、いつもより美しく見えた気がした



















相互あざーす!(^з^)-☆Chu!!


こんな駄文ですけどどうかお持ち帰りなさって下さいm(_ _)m

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