T
□曇りガラス越しの本心
1ページ/2ページ
「……ん…?」
「あ、起きましたか、ユリアさん」
「……確か…」
「はい、何時の間にか…」
「…そう…でしたね…」
夕方になって公務も一段落つき、少し休憩しようかと思っていると、仕事が早く終わったとユリアさんが来て、適当に雑談を交わしている内によほど疲れが溜まっていたのか、何時の間にか寝息を立てていた
「はい、お水です」
「…ありがとうございます」
「随分と汗をかいてますね…何か悪い夢でも見ましたか?」
「…はい、…アレが現実なら、耐えられない様な酷い夢でしたね」
「本当に良かったですね、それが夢であって、…差し支えなければ内容を聞かせて貰っても良いでしょうか?」
「別に構いませんが…、先にシャワーを貸して頂けないでしょうか?酷く汗臭いものですから…」
「あ、はい、どうぞお使い下さい」
※
※
〔シャーーーーー!〕
「タオル類ここに出しておきましたよ」
〈あ、ありがとうございます〉
「良かったらお湯を沸かして温まっても良いですよ?」
〈いえ、大丈夫ですよ、お気遣いなく〉
「後、軍服は宜しければお洗濯しておきましょうか?」
〈いえ、そこまで迷惑を掛けるワケには…〉
「1人分も2人分もさほど変わりませんよ、洗濯、しておきますね」
〈…申し訳ありません、お願いします〉
「はい、それではごゆっくりどうぞ」
〈………クローゼ〉
「あ、はい、何でしょう」
〈先程の悪夢の話…聞いて頂けますか?〉
「…はい」
〈あれは…貴女が…私の前から忽然と消えてしまった…という内容でして…〉
「私が…?」
〈はい、只、それだけです……それが、どうしようもなく怖かった…〉
「……………」
〈クローゼ…?〉
「…えっと、………なら、ユリアさんは…わ、私がいない現実は耐えられないって…思ってくれているの…ですか…?」
〈はい、軍人としても、ユリア・シュバルツ個人としても、貴女が私にとっての人生そのものです〉
「…………」
(…き、聞いているこちらが恥ずかしくなりますね、よくもまあ、臆面もなく…)
恐らくは本心だろうが、恥ずかしい台詞の割に、声色の変化がないのが何故か知らないが多少腹が立つ
「…安心して下さい、ユリアさんが、そう思っていてくれている限り、私は何処にも行きませんよ」
〈…その様にことを言われたら自惚れてしまいますよ?〉
「…なんならストレートに言わせて戴きますね?」
〈?〉
「大好きですよ、ユリアさん?」
〈………!?〉
浴室から発する慌てたような音を聞きながら、"どうぞ自惚れて下さい"、と言葉を残し洗面所から出る
先程の恥ずかしい台詞の仕返し、と銘打った気持ちは曇りガラス越しだからこそ言えたこと
この本心を目の前で言えるのはまだまだ先みたい、と、真っ赤になった顔で考える
了