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□勘違いとお土産
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「ピュー」


「ん?どうしたのジーク?」


まだ薄暗い朝靄のかかる早朝、身支度を整えている時、ジークが神妙な声色で話しかけてきた


「ピューイ」


「…話したい事?何?」


「ピュイ…ピュイ」

「…え…ジーク…今…なんて…」


「ピュイ…」


「…ユリアさんが…お見…合い…?」


「…ピュー」


「しかも…今日…?」



混乱と驚愕の中、忙しく1日がまた幕を開ける









何時もの2倍は素早く身支度を済ませた私は事の真偽を確かめるため、親衛隊の詰所へと駆けた


「もう、出掛けられた…?」


「はい、大事な用があると言っていました」



時すでに遅し、四方やこんな早朝から向かうとは
そこまでして隠したいことなのか、他の理由があるのか



「何か聞かされていませんか?」


「いや…何も聞かされてないですね、でも荷物は少なめでしたから多分日帰りじゃないでしょうか?」


「そうですか…」


「ピュイ?」


「うん、だね、…フランツさん、ありがとうございました」


「あ、はい!恐縮です!」



直接話しをすることは叶わなかったが、まだ当てはある、それを頼りに城内を歩く









「いえ、私は何も」

「そうですか…」



ヒルダさんなら何か掴んでいるかと思い、侍女室を訪ねてみたがまたも空振り



「陛下なら何か知っていられるかもしれませんが…」


「ええ…、でも今は難しいでしょうね」


お祖母様は今共和国へと赴き、大統領との会談へと臨んでいるだろう、この城の主である方であれば何か知っているかもしれないが、今は頼ることが出来ない



「ありがとうございましたヒルダさん」


「ええ、…殿下、言わなくても大丈夫と存じますが…」


「大丈夫です、仕事に私情は持ち込みませんから」


「そうですか、それを聞いてヒルダ、安心致しました」



そうだ、事はユリアさんが帰ってきたら問えばいい

今日もやることは沢山ある、一旦この事は端に追いやりユリアさんの帰りを待とう











「殿下、紅茶をお入れしましたよ」


「ありがとうございます、頂きますね」

「はい、…って!殿下!」



〔ゴクゴクゴク〕



「ふう…、美味しい紅茶です、もしかして新しい茶葉ですか?」


 
「あ、はい…、帝国産の…それより殿下、…まだかなりお熱い筈…ですが…」


「え、………む!?、ーーーーー!!!???」

「こ、氷…持ってきますね!」








時間は流れて夕方

その後のクローゼは普段見せない様な醜態
具体的には書類の宛先を間違えて遊撃士協会宛の書類をリベール通信社に送ってしまったり、ドレスを着ているワケでもないのに何も無い所で転んだりと、心此処にあらずといった行動が目立った

今は城門前のベンチに腰掛け、ジークと共に不調な1日を振り返っていた



「…はあ……」


「ピュイ?」


「うん、大丈夫だよ、ちょっとぼんやりしちゃってたね」


「ピューイ」


「……やっぱり、気になっちゃってたのかな、まだまだ頑張りが足りないね」


「ピュイ!」


「…ふふ、慰めてくれてるの?」


「ピュイ」


「ありがとう、ジーク、…うん、元気出すね」


「ピュイ!」


「…もう戻ろうか、少し寒くなってきたね」


「ピュイ、…ピュイ、ピューイ!」


「え、…あ!」



遠方に見える影
身を包むのは蒼の軍服、短く切り揃えられた空と同じ色の髪



「ユリア…さん」


今日私の思考を埋め尽くした人、待望した筈の帰りなのに



「クローゼ…と、ジーク」

「………あ、あの」

「…どうしました?」



私は何と言いたいのか、どうしてほしいのかどうしたいのか
その答えを考えることもしなかった、環境の変化を想像するだけで怖がったのだ


「…ああ、そういえば」


「?」


「お土産を持たされまして、良ければ遅いお茶にしませんか?」



今は土産よりも思いついた一言だけを言っておきたい



「…何…で、私に…何も言って下さらなかったのですか?」

「…?」


「確かに…頼りには出来ない未熟な小娘ですけれど…それでも…!せめて一言くらい…!」


「…………ごめんなさい」


「…それで…、どう、なりましたか?」

「はい…後一週間もすれば治るそうです…」


「…治る?」


「はい、…ごめんなさいクローゼ、まさか貴女がモルガン将軍のお孫さんとそこまで親密な関係だったとは…」


「………はい?」


「ならば誘うべきでしたね、¨お見舞い¨に忙しく貴女を誘うのはどうかと思ったのですが…」


「…お見舞い…?」

「はい、…お見舞いです」


 
「…………ジーク?」

「ピュ!」


「ごめんなさいユリアさん、状況を整理するために一度私の部屋へ来て戴いて宜しいでしょうか?」


「あ、はい、構いませんが…」











「ぷっ…はははは!!!」


「ごめんなさい…私とジークの勘違いでした…」


「ピュイ…」


「い、いえ、それは別に…しかし、…くっ、はは!!」



ユリアさんが貰ったバウムクーヘンを頂きながら状況の確認をしたらこの様で、まったく馬鹿らしいベタ過ぎる勘違いだった

そもそもジークはユリアさんとモルガン将軍の会話が偶然耳に入っただけで、しっかりと聞いていたワケではないのがそもそもの始まりだった


肝心のユリアさんはモルガン将軍のお孫さんのリアンヌちゃんが風邪を引いて、リアンヌちゃんの強烈なリクエスト(流石はユリアさん)でお見舞いに駆り出されたワケである、朝も早かったし特段言うようなことも無かったからと伝えなかったそうだ



「せめて親衛隊の方には伝えておいて下さい…」


「いやぁ…偶々いたフランツに大事な用がある、今日中には戻る、と伝えてはいたんですが…」


「…それを勘違いしていた私達が聞いてしまってさらに混乱してしまった…ですか…」


「ピュイ…」


「まあ、私の様な人間を見合い相手に選ぶ殿方は余程の好き者でなければいないでしょうな」


「またそんな…」


「ピュイ」


「それに…私が見合いをした、というだけで慌てふためく可愛らしいお人を放っておくことも出来ませんしね」


「あ、ははは……」


(ユリアさんだから慌てふためいたのですけどね)



結局、結果は下らないものだったけれど、お土産の美味しいお茶請けを頂けたから良しとします



(…ジーク、後でお話しが…)


(ピュイ!?)


「ん?」


「あ、何でもないですよ」










 
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