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□ギルバートのドキドキ大作戦
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あ、ども、ギルバートです
只今非常に大変な状態です
この超エリート、《身喰らう蛇》盟主様からも絶賛され、世界に名を轟かす予定の悪のホープ、ギルバートが何を言っている、と皆さん思いかと存じますが本当に大変なんです、比喩でなく真面目に命の危機なんです
「……八つ裂きで許してやろう…」
「ユ、ユリアさん!少し落ち着いて下さい!」
「クローゼ…、人には譲れない一線があるのです…」
「頼みますからそれは譲って下さい!」
…と、先程からユリア殿が僕にドス黒い殺気と共に剣を僕に向けて、クローゼ君がそれを必死に宥めている状況が続いているのだよ、いやいや、流石は僕の優秀な後輩、頼りになるねえ
さて、僕の命の行方が決まる前にどうしてこうなったのか回想でもしてみようかな、どうせダークマターでギチギチに拘束されて動けないしね
れっつごー♪
※
夜の帳に包まれる王都グランセル、リベールの象徴であるグランセル城に降り立つ1つの人影があった
〔スタッ!〕
「よーし、潜入成功、流石は僕と僕の自慢の蒼い翼だな〜」
人影の正体は《結社》のパシリ兼カンパネルラのお気に入り玩具、ギルバートであった
彼が忍び込んだ理由は、唯1つ
「目的は食料の強奪、及び金銭の調達…、ふっ、…一流の悪の組織に属してるからには一般の民家は狙わずに王家を狙う、…格好いいなあ、僕、痺れる〜、僕」
下らない理由で城に忍び込んだギルバート、どうやら゛《結社》から支給された食料や金銭を出掛けている間に空き巣に入られてすっかり失った゛ことは記憶から消したようだ
「さて…、城内に入るのは目立つからな…、うん、あの離れを攻めよう」
ギルバートが向かったのは、女王宮
リベールを治める女王とその孫娘の部屋を備える小さな建物である
「よし、作戦開始!」
失敗した場合を一切想像せずにギルバートは女王宮、偶然目に入った近くにあるクローゼの部屋へと駆ける
※
〔シュウウウウ!〕
「う、…な、なんだこの臭い!」
「くっ、…な、何故か腹が、腹が痛い…!…ト、トイレ!」
〔ダダダダダ!〕
(…はえ?、協力な眠気を誘う煙玉なんだけどな…?まあ、結果オーライ、流石は僕)
実はカンパネルラが遊びですり替えた[狭い範囲で強烈な腹痛を誘う煙玉]だったことをギルバートは知る由もなかった
(さて…、何はともあれ警備兵は消えたな、後は部屋に押し入りライフルを突きつけ…、1人の怪我人も出さずに目的を遂行する…、むふふ、これでこそ一流の悪だ)
想像上の自分に酔いながら、丁寧に磨かれているであろう曇り1つないドアノブに手を掛け、ゆっくりと開ける
〔バンッ! ガチャ!〕
「やい!手を挙げ壁につ〔ガギンッ!〕…………ほえ?」
「…こんばんは、早速ですが目的を洗いざらい…、って、え?、…ギルバート先輩?」
ライフルを両断されたことに数秒遅れて気付いたギルバートは学園時代の後輩が剣を構えたまま目の前で驚きの表情を浮かべているのを理解するまでにまた数秒を要した
「…先輩、どうして此処にいるのか判りませんが、既に貴男の武器はありません、大人しく投降するなら悪いようにはしませんから…投降して下さい」
「…ははは、久しぶりだねクローゼ君、元気だったかい?」
「会話の隙をついて手榴弾を用意している人を見破るくらいの元気はありますね、…ダークマター、少し縛らせて貰います」
〔ググググッ〕
「うぐあっ!」
「無駄な抵抗は止めて下さい、先輩はどうせロクに《結社》の情報を持っていないでしょう?簡単な取り調べだけで済ましてあげますから抵抗は諦めて下さい」
(くっ、かくなる上は…)
「目立ってしまうから使いたくはなかったが…、仕方がない!来ぉぉぉぉい!Gィィィイアパァァァッシュウウ!!!」
〔ズバッ!ガシャンッ!ガガガガ!〕
「なっ…!?」
「ふはは!さあ!これが僕の最終手段だ!さあやれ!G・アパッシュよ!」
(…先輩…、自分が捕まってるって判ってるのかしら?)
いまだにねじ曲げた空間に両手足を束縛されているギルバートを横目にクローゼはG・アパッシュと相対する
相手はあの《結社》の人形兵器、たとえマスターが"あれ"でも油断は出来ない相手だ
(…強力なアーツで…一気に決めますか)
「くっくっくっ…、さあやれG・アパッシュ!お前の翼を〔ガギャン!〕……ほえ?〕
ギルバートの目に映ったのはG・アパッシュの動力部に突き刺さる一振りの剣と夜空に映える空色の髪だった
「…じ、…G、アパッシュ…?」
「ご無事ですか?クローゼ」
「私なら大丈夫です、ありがとうユリアさん」
動力部を破壊されて只のガラクタと化したG・アパッシュの前でうなだれるギルバート、両手足を縛られ武器も失った彼はもはや抵抗の術を持ってはいなかった
「…さて、ギルバート殿、クローゼに手を出した罪……、清算して貰う…、今日の城内警備の担当が私だったことを悔いて散るがいい…」
「ひ、ひい!」
〔ババッ!〕
「きゃ!」
剣を構えて鬼の形相で詰め寄るユリアから逃げるように尺取虫よろしくクローゼの足下へと這っていき、土下座の姿勢を取る
「ご、ごめんなさい!僕が悪うございました!」
「土下座で済むのなら軍人は要らないのですよ…」
「くっ…!ならば…!、とう!」
「…は?」
あっさりと得意の土下座を破られたギルバートは体の自由をかなり制限されたまま器用に飛び上がり、得意の土下座の姿勢を空中で取る
「必殺!空中超土下座!」
クローゼの身長程度の高さから土下座の姿勢で重力に任せて落下する、その渦中で
〔ガリッ! …パサ〕
「………」
「……え」
「な…な…」
ギルバートの着ているゴチャゴチャした猟兵団の鎧が偶然にもクローゼの寝間着のスカートに引っかかってしまい、同じように落下する、幸いにもギルバートの頭は地面に密着していた為、見られることはなかったが
「…き、きゃあ!?」
「貴っ様ァ!八つ裂きにしてくれる!」
「…はえ?」
※
〜回想終了
はあ…、どうして城なんかに来たんだろ…、冷静に考えれば別に民家とかで良かったのに…
「…このまま生かしてはおけません、どうか理解して下さい」
「わ、私は気にしてませんから大丈夫ですよ!、それに《影の国》での恩もあるでしょう!」
あ〜、ドラギオンの撹乱ことか、あれは大変だったな〜
「くっ…、…判りました、…手を引きましょう」
「あ、ありがとうございます」
お、やったね、手を引いてくれたって
「ただ…」
ただ?
「せめて一発…、このままでは気が済みませんので」
「まあ、…一発くらいなら…」
ん?どうしたユリア殿?なんでこっちにってアゴブ!!!!
その後、そのまま一晩ほっとかれたギルバートは何時の間にか回収されていた、恐らく今頃カンパネルラに遊ばれていることだろう
「しかし何故あの男はやって来たのでしょう、陛下に危害が加わらなくて良かったですが?」
「さあ…?でも先輩のことだから「王家に潜入する僕格好いい!」くらいしか考えていないかもしれませんね」
「かもしれませんね、空き巣に入られて食料やら金品やら全部持って行かれたとかで」
「先輩ならありえるかもですね」
了