東方

□(中−2)妖怪の山〜紅葉散華〜
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寒い、何だかすごく寒いんだ、震えが止まらない


そのくせ、喉が灼けるみたいに熱いんだ


こんな感覚、初めてだ、それなりの年月を行きたつもりでいたけど、やっぱり初めてだ


……ああ、そっか、これが死か


まったく、呆気ないなぁ、まだまだ生き足りなかったのに



「妖怪なんて不条理でなんぼ、でしょ、さっき自分で言ってたじゃない」



……何だ、この白いの
誰かは分からないけど、見覚えはある、気がする
腹から何かがふつふつと沸き上がる



「生きろだなんて言わないよ、射命丸文は、こんな不条理なんて跳ね返すに決まってる、私には分かるよ」



……何言ってるんだコイツ
どんな妖怪でも死ぬときは死ぬんだ、そんなこと出来るわけ…



「それじゃ、頑張って、また会いましょう」



……そうだ、死ねない、私はまだ死ねない
そうだ、思い出した、やられたまま死んでなんてやるもんか、あのいけ好かない天狗に引導を渡すまでは絶対に死ねない、…死んでたまるか



「…首洗って待ってなさい、楓」



いつの間にか、震えは止まっていた












射命丸文は、体中に走る激痛で目を覚ました



「…〜〜〜!!」



腹部からは焼け付くような痛み、妖力はスッカラカン、靄掛かったような意識がふわふわと浮いて思考がまとまらない



「お、やっと起きた」



自分に声をかけられたと認識不足できるまで、数秒かかった
朦朧とした思考が意識の対象を得ることによって、最低限の働きを取り戻したようだ



「……はたて…?」



自分と同じ装束を身につける少女
烏天狗の同胞にして付き合いの長い友人

姫海棠はたて
烏天狗の民の中、異端児と呼ばれる変わり者である



「あれ…どうしてあなたがここに…?…!、いたた…た」


「あ、ほらほら、後で説明してあげるから、今は寝てなさいよ」



冷静に辺りを確認してみると、自分は布団に寝かされていて、不器用だが包帯で治療までされている
室内だが、粉々に砕かれた壁は何処にも見当たらない、ここははたてが住む小屋だろうか
…私の家より綺麗だ



「はたて、倒れてる私を…拾ってくれたのが、あなたでいいんですよね?」


「うん、私だけど」


「…私と一緒に、白狼天狗は転がってませんでしたか?」


「…さあ?」



そっか、と、文は渇いた口で呟いた
文自身も驚くほど、生気というものが感じられない声だった



「あれ、文起きたの?」



感傷に浸ろうかという一歩手前、数百年と聞き慣れた声が聞こえた
雪の様な銀色の髪、焔のような深紅の瞳
無二の親友にして宿敵、犬走楓の姿が再びあった



「やっぱり強いね、あれで殺せないんじゃしょうがない、私の負けだよ」


「かえ…で?」


「死の淵より、おかえりなさい」
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