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□失恋のお薬
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「この書類は明日までか、早めに仕上げなくてはな」
 星すらも眠ってしまった夜更け。ユリアは親衛隊の宿直室で書類の束に囲まれていた。
 リベルアークが崩壊し、人々も日常生活を取り戻しつつあったが、それでも人々を不安から守るために町や村に軍を駐在させたり、ライフラインの復旧、導力停止時の軍備のあり方など問題は山積みだった。

 今宵はグランセル城にて、異変を食い止めるために協力してくれた皆を招待し祝賀会が行われ、すでに招待された客はそれぞれ帰路に着いたり、客室で眠りに付いたりしていた。
 ユリアも祝賀会に参加し、皆と親交を深めることが出来た。祭りの後の晴れ晴れとした寂しさの余韻に浸っていたいが、どうやら書類は待ってくれそうもない。
 長期戦になると踏んだユリアは、大きく伸びをする。

 コンコン。
 控えめなノックの音。その音に心当たりがあった。
「お入りください、殿下」
 ユリアがドアを開けると、部屋着にガウンを羽織ったクローゼが立っていた。
「……ユリアさん、お仕事中でしたか。お邪魔しました」
「クローディア、いえ、クローゼ。今私は休憩中です、お茶を入れますね」
 慌てて出て行こうとする

クローゼを、ユリアは穏やかに引き止める。
「散らかっていますが、どうぞ」
 クローゼをソファーに座らせ、茶器を並べる。
 クローゼは始終穏やかな微笑を浮かべていた。祝賀会の間中ずっと。
 けれど、ユリアは気が付いていた。
 柔らかな笑顔の裏で、クローゼは必死になって涙をこらえていたことを。
 気が付いた者はいない。王太女としての責任と……女としてのプライドと。
「……ユリアさん、あの……お仕事は大丈夫ですか」
「クローゼ、言いたくなければ無理に言う必要はありません。ですが……話して楽になるのならばいつでもお待ちしていますよ」
「ユリアさんっ、あ、あの私……振られてしまいました!」
 クローゼは言葉を詰まらせそれだけを言うと、ユリアの胸にしがみつきむせび泣いた。

「そう……ですか。けりをつけてきたのですね」
 琥珀の瞳を持つ少年、クローゼの想い人。
 彼は、クローゼではなく、太陽の娘の手をとった。
「私、ヨシュアさんのことも、エステルさんのことも同じくらい大好きで大事なのです! なのにエステルさんにやきもちを焼いてしまうんです! ちゃんと心の整理をつけたはずなのに」
 ユリアは泣きじゃくる
クローゼの肩をそっと抱きしめた。
「クローゼはやさしいのですね。やきもちを焼くのは皆同じですよ。決して悪いことではないのです」
「そう、でしょうか?」
「そうですよ、しいて言うなら私もクローゼに嫉妬していますよ。どうしてこんな風に可愛らしく生まれてこなかったんだろうってね」
「ユリアさんてば」
「さて、お茶が冷めてしまいましたね、入れなおしましょう。それと、失恋によく効くお薬があるんですよ」
 ユリアはごそごそ書類机を漁った。
 チョコレートにクッキーにキャンディー、お菓子の山がクローゼの目の前に並んだ。
「こんなに沢山、どうしたのですか」
「失恋といえばやけ食いです。宿直用非常食なので後で足しておけば問題ありません。では、いただきましょう」
 ユリアはそういうと、クローゼの口の中にチョコレートを一粒放り込んだ。
「あっ、ずるいです」
 クローゼも負けじとユリアの口にキャンディーを押し込む。
「……キャンディーはナシにしましょうか。しばらくお茶が飲めません」
 二人とも顔を見合わせくすくす笑った。
「ユリアさん、ありがとうございます。元気、出てきました。それと……また、私の元気が無くなってしまったら、少しだけユリアさんの元気を分けてもらいに来てもいいでしょうか?」
「私でよければ喜んで」
「では、そろそろ休みますね。ユリアさんもお仕事頑張ってください」
「ありがとうクローゼ。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ユリアさん」
 パタリと扉が閉まった。
 もう、クローゼは大丈夫だろう。
 これから王族ゆえにつらいことが沢山起きるだろう。皆と笑いあいながら旅することも、一人の男の子に恋することも出来ず、国を統治する重圧を細い両肩に受けて。
 クローゼが私を必要としなくなるまで、クローゼを支えていこう。
 ……いや、私のほうがクローゼを必要としているのかもしれないな。
 ユリアはチョコレートを一粒つまむと、書類の束に戦いを挑んでいった。



















素晴らしい贈り物をありやとやっした!!!!

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