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□ちょっとした嘘
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「あの、ユリアさん……私、お腹に子供がいるんです……」
女王宮のクローゼの自室。ユリアと向かい合ってお茶を飲んでるクローゼが真剣な面持ちでそう告げた。
「そうですか、おめでとうございます。私は男の子でも女の子でもどちらでも好きですよ」
まったく表情を変えないまま、ユリアはティーカップから口を離さずそう言い放った。
「ユリアさん! 信じてくれないのですか!」
憤慨したようなクローゼの言葉に、ようやっとユリアはカップから唇を離し、笑った。
「今日の嘘は午前中までですよ、残念でしたね」
ユリアが指差した導力時計は四月一日午後三時二十分。
「それに、妊娠すると匂いに敏感になったり、いつも食べられる物も受け付けなくなったりするんですよ。でも、クローゼはいつもと同じ元気いっぱいですからね」
「ユリアさんにはかないませんね」
クローゼもつられて笑った。ちょっと残念そうな、でも嬉しそうな柔らかな笑顔。
「それに本当だったら、相手の男を叩き切っていますから。ヨシュア君でもオリヴァルト殿下でも……」
「ユリアさん、目が笑っていませんよ……」
クローゼは細剣の鍔に手をかけたユリアを必死で止めた。この人なら、本当にやりかねない。
「クローゼ、母になることはそれなりの責任が伴うことです。冗談にして良いことではないと思いますよ」
ユリアにたしなめられて、クローゼはしゅんとした。上目遣いでユリアの顔を覗いたとき、いつもと違うことに気がついた。
ユリアの顔が蒼白になっていて、唇も青い。そういえばお茶は少し口をつけていたが、目の前の茶菓子にはまったく手をつけていない。
「ユリアさん、大丈夫ですか!」
「……ちょっと、失礼!」
慌てて化粧室に入っていくユリアの後をクローゼは追った。口を拭いながら化粧室から出てきたユリアにクローゼは取り乱していた。
「大丈夫ですか、ユリアさん! えっと、もしかして……私、ヒルダさんに相談してきます!!」
「あの、クローゼ!ちょっと待ってください!」
しばらくして広まったユリア御懐妊の噂は、本人の必死の弁明により二日酔いによるものと明かされることになった……
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