お題小説
□顔も見たくない
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売り言葉に買い言葉
ただそれだけだった
『顔も見たくない』
「はあ〜…」
人の目も気にせず、深くため息をついているのは吾代だ。仕事が一段落したのは夜の九時すぎで、帰り道に携帯を見れば見るほどため息がでてくる。
事の発端は一週間前
事務所に情報を運んだ時のこと
「吾代さんだ!」
事務所に入るなりぱぁっと笑顔を見せる弥子に、吾代の疲れもぶっとびそうだった
「よう…あいつは?」
「ああ、ネウロ?(あかねちゃんと)買い出しだって。だから今日は私が鍵しめなきゃ」
他にも色々としゃべり続ける弥子を見ると、吾代はなんとなく心が和む。
もともとあまりしゃべる女は好きではない吾代だったが、弥子が表情をコロコロ変えながら話すのは、ひどく可愛く感じる。
「吾代さん?」
あまりにぼーっとしていたようで、弥子は身を乗り出して上目遣いで自分を見ている。
そんな姿がまたかわいい。
…もう病気かもしれない、と吾代は自分がおかしくてしょうがなかった。
「私変なこと言った?」
「いや、なんでもねえよ」
こういう他愛のないやりとりが、たまらなく幸せで、自分ももう歳かもしれない
まさに吾代がそう思ったとき
〜♪〜♪
「あ、ごめん。メールだ」
弥子は話を中断し、携帯を開く。まあこんなことはよくある話なので、吾代は暇つぶしにタバコに火をつける。
と
弥子の様子がおかしいことに気付く。
画面を凝視したまま、顔がどんどん赤くなっているのだ。
吾代は、弥子が素で照れているのがわかった。だからこそ、どうしても知りたくなった。
「どうした?」
「なんでもない!!」
弥子は間髪入れず即答した。相変わらず照れた表情で。
「誰だ?彼氏か?」
「違うよ、ネウロだよ!」
弥子がネウロのメールで照れる。
吾代には、それがカップル同士のいちゃつきにしか見えなかった。
「そういう関係かよおまえら」
「吾代さん?」
「いっつも二人で行動してるしな、怪しいわやらしいわ」
「は?」
自分でも何言ってるんだ、と自分を殴ってしまいたくなる
だが、とまらない
「大体なんだ、お前」
「吾代さん…?」
「誰にでも愛想ふりまきやがってよぉ、そんなに男好きか」
「なっ!?」
心当たりはないのに、ここまで言われちゃ黙ってはいれない弥子
「ひどい!なんてこと言うの吾代さん!」
「うるせぇ!もう帰るからな!」
「わけわかんないよ!吾代さんのバカ!」
「あぁ!?もう顔も見たくねえよ!」