お題小説
□嫌
1ページ/5ページ
可愛くて可愛くてしょうがない彼女が
涙をにじませながら
「イヤッ…」
とか言ったら
正直
もう何もできない
『嫌』
「ふぅ…」
笹塚は仕事の合間、憂欝な気分やため息をごまかすためにタバコを取り出す。いつもの様に火をつけ、いつもの様に吸う。が、いつものようにリラックスはできないでいた。
表情はいつもと特に変わらないので、まわりの同僚が笹塚の異変に気付くことはない。本人は気付かれようと気付かれまいと、どちらでもよかった。
ただでさえ低いテンションが、余計低くなる。
こんなにも笹塚の調子を狂わせているのは、昨日のある出来事だった。
「本当に今日泊まってくの?」
笹塚は表情こそ変えなかったものの、驚きながら弥子に尋ねた。
「うん、せっかく今日家に誰もいないのに!」
弥子は笹塚の驚きなどまったく気付いていなかったようで、楽しげに笑いながら答える。
弥子と付き合い初めて二ヵ月。仕事や学校や、色々あって、こうして泊まるということは初めてだった。お母さんが出張で、明日は平日にも関わらず、弥子は泊まりに来たのだ。
わかってるんだろうか
一人暮らしの男の家に泊まるという意味が
笹塚は自分の考えを振り払うように頭を振り、弥子の言葉を受け入れた。