小説U
□あなたがそうさせるのに
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電話も俺から
メールも俺から
話しかけるのだって俺からだ
…あれ、これってなんかおかしくない?
『あなたがそうさせるのに』
「なんかヒグチさん怒ってますよね?」
「別に?」
「ふーん…」
弥子はそれ以上聞こうとはしなかった。そうさせないのはヒグチが恐ろしいくらいさわやかな笑みを浮かべているせいである
笛吹に呼ばれてしぶしぶながら本庁へと行ったヒグチ。データの回収だけで帰ろうとしていたその目に映ったのは、署の刑事たちにお菓子をこれでもかというほどもらっている弥子の姿だった
「あれ?桂木じゃん?」
「あ、ヒグチさん」
「桂木も来てたんだ」
ここからはいつもの調子のトークで、弥子をうまい具合に誘導し、喫茶店デートまでこぎつけたのだった。
そこで弥子の話を延々と聞く。女は話を聞いてくれたほうが嬉しい、というのはなんとなくわかっていたからだ。ただ弥子の場合、食べるスピードが全く落ちないことが驚きだ。
そして、会話を続けていると、弥子がこんなことを言うのだ
「そういえば、この前ヒグチさんがくれたメール、授業中に鳴っちゃって先生にすっごい怒られたんですよ〜」
「あ、そうなの?」
そうか、学生には授業というものがあるんだ
…ここでヒグチは疑問に思った
自分は仕事中に弥子からのメールを受信したことがあっただろうか
むしろ向こうからメールがきたことがあっただろうか
いや、待てよ
むしろ俺だけ勝手に動いてるよな
…という思考の経緯の末に、冒頭の思考に至ったのであった