小説U
□つつまれて
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「弥子〜」
「ん?」
「あんたさ、男できた?」
叶絵の言ったこの言葉に驚きすぎて、脱ごうとしていた制服がもつれちゃった
「なんで!?」
「なーんか、制服から男のにおいがするんだよね〜」
なんとか脱いだ制服に鼻を近づけてみる
かすかに
かすかにだけど
大好きなあの人の名残を感じた
『つつまれて』
「あっついね〜、室内競技でよかった」
「で、相手は年上?社会人?」
二学期とはいえまだ暑さが残る九月の体育の授業。バレーボールで同じチームの叶絵と、今は点数係の真っ最中だ
叶絵は質問を止めるつもりは全くないらしくて、私は苦笑いを浮かべる
「だから〜、そんなんじゃないってば」
「タバコとかのにおいもしたし、若者がつけそうな香水の感じもしなかったから、サラリーマンってとこかな?」
ちょっと、勝手に話を進めないでよ!
叶絵はするどい
特にこういう恋愛ごとになると、もう本当に強い
でも
本当に
「彼氏とかじゃ、ないんだって」
「ふーん?」
そう、彼氏なんかじゃないの
「好きなんだけど、ね」
笹塚さんが
話しているうちに私たちのチームの試合が来たみたいで、慌ててコートに向かった
===
ああ、年甲斐にもなく恋愛ごとでにやにやしてしまう自分が恥ずかしい
弥子ちゃんに会ったのは昨日の夕方
今年の夏はどこにも行けなかった、海に行きたかったのになんて言うから
連れて行ってしまった
夜の海なんて、真っ暗なだけだとも思いつかずに、車を一時間も走らせて
「なんか夜の海って、神秘的な感じがする」
満月だし、とつけくわえて、それ以上何を話すでもなく、ぼーっとながめていた
海と弥子ちゃんを、交互に
そこで、寒そうに見えた弥子ちゃんにスーツをかけて
…かけて
それがまずかった
「たばこ臭いおじさんのスーツかけるなんて、やっぱマイナスだよなあ」
「何の話っすか?」
「お前には絶対に関係のない話だよ」
プラモの色付けをしながら聞いてくる石垣の質問をスルーして、帰り支度を始めた