光馨小説

□庶民双子
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庶民な双子



「うあー寒っ!」
「仕方ないでしょ、もうすぐ冬なんだから」

秋も深まり、朝晩と日中の寒暖の差があまり感じられなくなってきたこの頃。移動教室の帰りに冷えた廊下を足早に歩く光とハルヒがいた。
寒い寒いと騒ぐ割に、光はYシャツにカーディガンだけ(それもボタンをいくつか外して着崩している)という出で立ちなものだから、何だか矛盾しているなとハルヒは思った。

「でも寒すぎ!あったかいの飲みたい!」

言いながらパックの自販機に駆け寄る光。素早くポケットから財布を引っ張り出すと、お金を投入しホットココアのボタンを押した。そしてガタンとパックが落ちてきたのを確認し、同じボタンを再び押す。

「一気にふたつも飲むの?」
「違うよ、ひとつは馨の分!」

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馨ってば寒がりだからさーとパックを取り出しながら呟く光の横顔は、優しい表情をしている。


「あれ?光とハルヒじゃん」

後ろからの声に振り向くと、そこには光同様にYシャツにカーディガンのみ(ただ着崩しすぎていない分まだ暖かそうだ)の馨が立っていた。

「馨ー!はい、コレ!」
「わあっありがとう」

光から満面の笑顔で差し出されたココアを受け取る馨もまた嬉しそうな笑顔を見せて、まるでここはふたりだけの世界のようだと思った。

「僕もこれ飲みたいと思ってたんだよねー今日寒いんだもん」
「良かった!んじゃ行こーか馨、ハルヒ」

光が背を向けたその時、馨にこっそり「はい」と温かいものを手渡される。驚いたハルヒが手の中を見ると、それは先程光が買ったものと同じホットココアだった。
一瞬ワケがわからなかったが、馨の手にも同じものがあるのを見つけ何となく悟る。


「馨、最初からそこの影にいた?」
「…うん。光に渡そうと思って、ここ通るだろうし買って待ってた」


光は寒がりだからさ!と恥ずかしそうに笑う馨に、ほんわりと温かい気持ちになるハルヒであった。

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