極彩色の世界

□1.全て溶け合ったら、漆黒
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デザートとして出されたお気に入りのケーキを前にしても美味しそうだとか食べたいだとか思えなくて、好意で出されたのだからと口に運んでみたけれども味がよくわからず残してしまった。夕ご飯も殆ど手をつけなかった為か体調を心配する使用人に適当な応えをして部屋に引き籠もる。
誰かと会話をすることが嫌で相槌を打つことさえも嫌で、表情を作ることが重労働だからひとりになりたかった。そしてひとりになると勝手に零れてくる涙が、くるまっているお気に入りの毛布に滲んだ。


光と喧嘩をした。ここ数日悩んでいたあることを思い切って光に話したのだけれど、僕にとっては重大な出来事を「仕方ない」の一言で纏められてしまって。それがすごく悲しくて思わず僕が放った些細な(と僕は思った)一言が光にとっては起爆剤だった。本当に一瞬にして凍てついた態度へと豹変してしまった。あまりの豹変ぶりが怖くて、同時に気持ちをわかって貰えなかったことが余計悲しくて黙り込む僕を置いて、光は部屋から出ていった。
ひとり部屋に取り残された僕に、湧き上がるのは後悔ばかり。追いかけるのは怖いけれどどうしても謝りたくて電話をかけたら、留守番サービスで繋がらない。次いでメールをしても返信はなかった。そのうち使用人から光が外泊すると聞いて、心の底から打ちのめされた。
ああ完全に嫌われてしまった。他の誰でもない、自分自身の心無い一言によって。もう笑いかけて貰えることも、優しく抱きしめて貰えることもないのだろうか。…ないだろう、あんなに怒った光は生まれて初めて見た。それほどまでに僕は酷い言葉を言ってしまったのだから。


毛布がぐずぐずに濡れた嫌な感触で目を覚ました。泣き疲れて眠っていたみたい、無意識に丸めていた体が軋む。もしかしたら、なんて思って隣のベッドを見やっても当然光の姿はなくて、皺ひとつないシーツが虚しさを煽った。
後悔も悲しさも寂しさも愛しさも全部全部が溶け合って、色とりどりな絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたように僕の心は漆黒。
君がいなくちゃ何も見えない。

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