極彩色の世界

□3.暗い青に沈んでいく、
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授業が始まっても光は戻ってこなかった。何も知らない教師に不在の理由を聞かれ(昨日まではいつも一緒だったのだから、当たり前である)、曖昧にはぐらかしながらも気持ちはより深くへと沈んだ。授業を受けられる精神状態ではないのだけれど、すっかり重たくなってしまった体を動かすことができずにただ与えられた椅子に座っている。
ちらちらと突き刺さる、朝の出来事を見ていたクラスメイト達の同情と好奇を含んだ嫌らしい視線。それから逃れたくて机に突っ伏すと、涙が一滴机上を濡らした。これ以上ないってくらい流した筈なのに、まだ零れてくるなんてね。


休み時間になり教室がざわめきだすと、ハルヒから遠慮がちに声をかけられた。けれど「大丈夫」と答えるのが精一杯で、あからさまになった周囲の視線が痛くて苦しくて、もう消えてしまいたかった。
謝ることさえできなかった。会いたくない顔も見たくないと思うくらい嫌われた僕には、存在価値があるのだろうか。
悪循環な思考に陥った僕は、ひとりになれる場所を探しに席を立った。足元がふらつくのは満足に食事をとっていないから?わからない。誰かに呼び止められたけれど、それが誰の声であったのかも判別ができなかった。


足は自然と図書室へ向かう。一見死角にあるけれどよく陽が当たり、座り心地も良いソファーがあるのだ。授業の開始を告げる鐘がなった今、そこならばきっとひとりになれる。あと少しで辿り着く、早く早く。
俯きながら壁に縋るように角を曲がった途端、誰かにぶつかりよろけた。反射的に顔を上げるとまず趣味の悪いカラーリングをした髪が目に飛び込んできたが、顔を見ても名前が出てこない。でも男は僕のことを知っているようで、「てめえ!常陸院!」と怒鳴りながら僕の襟刳りに掴みかかってきた。そして次の瞬間、脇腹に鈍い痛みが走った。歪んだ視界に数人の男が映る。


涙で溶けて消えられないのなら、深く沈んで見えなくなるのもひとつかもしれない。
誰も僕を見つけないで。

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