極彩色の世界

□4.手を伸ばした先は赤の空虚
1ページ/1ページ


無防備な脇腹への衝撃で床に倒れ込んだ僕を踏みつけるのは、最初に襟刳りを掴んだ男。蹴りを入れてきたのは別の男だと、3人の男達の会話からわかった。ぎりぎりと踏みにじられる脇腹が痛いけれど、僕は男を睨むだけでさほど強く抵抗はしなかった。3人相手に勝てるとは思えなかったし、これは自分自身への罰だと思ったから。


引きずり込まれる形で図書室に辿り着いた。僕の背中には柔らかいソファーの代わりに固く背骨を軋ませる本棚。グイとまた襟刳りを掴まれ、「今朝はどうも」と言われ眉間に深い皺を刻んだ顔を寄せられる。心底僕が憎いといった表情。光も僕をこんな目で見るのだろうかと思ったら、絶望感でいっぱいになった。そんな無言の僕が癪に触ったらしく思い切り頬を殴られ、それが始まりの合図となった。
男達は喧嘩を熟知しているようで、確実に人間の弱点を攻撃してくる。絶え間ない痛みの中声だけは出したくなくて歯を食いしばっている為、呼吸をすることもままならない。しかし、あれ以降顔を殴らないのは周囲にばれることを恐れているんだな、と思えるほど頭の中は妙に冷静で。ぎゅっと閉じた目の裏に浮かぶのは、光の笑顔。

「っ…ひか、る…」

思わず呟いた名前が聞こえたのだろうか「あれっおい、こいつ弟の方じゃねえ?」と声がし、体に掛かっていた圧力が消えた。そしてこの男達といざこざを起こしたらしい光と間違えられたのだと知った。ああそれならばこの痛みは全て、光を傷つけた僕への罰で間違っていなかったんだね。



「馨、だっけか?お前、黙ってろよ」

頷くのが精一杯の僕は、今どんな顔をしているんだろう。泣きそうな顔?それとも笑顔?無表情?頬を伝うのは何だろう。涙だとしたら本当におこがましい。でももしそうだとしたら、僕はどうして泣いているんだろう。男達の顔も周りの景色も、ぼんやりとしか見えない。
薄れていく意識の中、体は動かせそうにないから体力が戻るまで暫くこのままかな、なんて思った。



一瞬愛しい輪郭が見えた気がして、痛みを忘れて手を伸ばした。
何も、掴めなかった。

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ