極彩色の世界

□5.渦巻く後悔は灰色に歪んで
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全身を襲う痛みで気がついた。薄目を開けると視界は真っ白で、僕は今どこにいるんだろうとぼんやりと考える。黙っていろと言われて頷いた、それからの記憶がない。指先には上質なシーツの感覚、痛む体を包むのはふわふわとした羽毛の心地好い重み。なんだかもう疲れてしまったから、考えるのは後回しにしてこのまま眠ってしまおうか。(できることなら永遠に眠りたい、な)
しかしその思考はガチャリとドアを開ける音に遮断された。視線だけを動かし見えたのは、鏡夜先輩だった。


「あ、の…ありがとう」

話によると僕は偶然図書室に立ち寄った鏡夜先輩に発見され、そのまま鳳の病院に担ぎ込まれたらしい。怪我は全身の打撲と、右足の骨折。あれだけ鳩尾に蹴りを入れられたのだから、内蔵もやられているかと思った…そんな風にまだよく回らない頭で考えていると、ベッド脇の椅子に腰掛けた鏡夜先輩に「ひとつ聞いてもいいか?」と問われた。眼鏡の奥の鋭い色が少し怖くて、僕はすぐに頷く。
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「何があった?」

思った通りの言葉。ぼろぼろで倒れていた僕を助けてくれたのだから当たり前の言葉でもある。だけど答えることはできなかった。黙っていろと言われたからじゃない、これは僕への罰だから僕だけが知っていればいいことなのだ。鏡夜先輩には申し訳ないけれど…。
一向に話そうとしない僕に呆れたのか、先輩は目を伏せて小さな溜め息を吐く。

「話せる時が来たらで構わない。しかしうちの大切な部員を傷つけたのだから、こちら側でも調べさせてもらうぞ」

無理強いはしないその言葉は僕の心にとても温かく沁みて、少しだけ温度を取り戻せたように感じた。僕なんて心配される価値がない、誰も見つけないでと思いながら、心のどこかでは心配して欲しい、見つけて欲しいと望んでいたのかもしれない。まるで愛されることばかりを望む無知な子どものように。そしてその幼稚な甘えが光を傷つけた。

後悔はまた渦巻いて、灰色に歪んでいく。



僕には、愛される価値もなかった。

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