極彩色の世界

□6.濃紺の天鵞絨に包まれた思い
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鏡夜先輩は海外出張中の両親に連絡を取ってくれていて、「ご両親はすぐには駆けつけられないそうだ」と聞かされた。それに悲しいという感情は湧かなかったけれど(だっていつものことだから)、光の携帯にホスト部の誰がかけても繋がらないと聞いたときは、心がじんと痛んで苦しかった。このことを知られたくないと思う反面、いつも傍にいてくれた光がいないことが本当に心細かった。


「光、何か事件に巻き込まれてるとかじゃないよね…」

あいつらが間違えたとはいえ僕への暴行で満足して、光にまで手を出していなければいいのだけど。何か相当頭にきているようだったから、もしかしたら既に呼び出しなんかされてしまってどこかで倒れているかもしれない。最悪な考えがよぎって、心配で胸がざわざわと息苦しくなった。
光がまだ無事なのであれば、それなりの対処をしておくことこそが守ることになるに違いない。そう判断した僕は、鏡夜先輩に「調べてもらうのはとてもありがたいけれど、傷害事件として表沙汰にならないよう手を回して欲しい」と頼んだ。こんなこと光は知らなくていいし知る必要がない、だから表沙汰になって知られたくない。
先輩は訝しむような目を一瞬見せた後、「お前がそれを望むのなら」と言いながらくしゃりと頭を撫でてくれた。それはまるで僕の恐れていることを察したかのような優しい撫で方で。不意に光がしてくれていたそれを思い出して、鼻の奥がツンとした。


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鏡夜先輩が部屋を出ていき、暗くなった部屋の中ひとりになった。痛みをやり過ごそうとゆっくり閉じた目に焼き付いている光の顔。最後に見たあの表情が忘れられなくて、毎日鮮やか映っていた大好きな笑顔さえも霞んでしまう。最後に聞いた言葉は、冷たい棒読みな「じゃあね」だったかな。その表情や声は中等部時代の僕らの、周りを完全に拒絶していたときのそれと同じように感じた。光はずっとふたりきりで築き上げてきた絆と信頼を裏切られた気持ちになったのだと思うと、罪悪感で呼吸ができなくなる。そんな裏切り者の僕に、光の無事を祈る資格はありますか?


濃紺の空間は不安を煽る。



どうか君は無事でいて。

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