極彩色の世界

□7.悪夢は紫煙の向こう側
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悪い夢を見た。どんな夢かと聞かれても答えられるほどの内容は覚えていないけれど、ただひたすら恐怖感と不安感で埋め尽くされた夢だった。目が覚めた時は全身が汗に濡れ心臓がばくばくとしていて、目尻には涙が溜まっていた。端から見れば滑稽な目覚めだったに違いない、そう思ったら口の端に自嘲が浮かんだ。

時計を確認すると針は既に13時を回っていた。僕は12時間近くも眠っていたらしい。痛みの残る腕で額の汗を拭い、未だ胸に纏わりつく恐怖と不安を拭い去りたくて深く息をついた。
今とても会いたいと思う。会って無事を確かめたいし、ちゃんと目を見て謝りたい。けれど、会いたい気持ちを僅かに上回る負の感情もあった。簡単に許してもらえるなんて思っていないとはいえ、冷めた瞳を向けられること、素っ気ない態度で接せられることが本当に怖い。
あの悪夢は僕の心を表していて、そして予知夢のようにも感じられた。我が儘だけれど、別れの言葉を聞くにはもう少し時間が欲しい。今の僕には、耐えられる自信がないよ。




「カオちゃん、もう起きて平気なの?」

ほどなくしてハニー先輩とモリ先輩がお見舞いに来てくれた。絶対にひとりじゃ食べきれない量のケーキとハルヒによく似た狸のぬいぐるみを持って。そして上半身を起こしてベッドに座っている僕に、うさちゃんを抱きしめ今にも泣き出しそうなハニー先輩は問う。それに僕はできる限りの笑顔で答えたけれど、先輩達には嘘の笑顔なんてすぐにばれてしまって余計に心配そうな顔をさせてしまった。

「……それより光、」

学校に来てた?と続けようとして、微かな音を立てたドアに意識を奪われる。反射的に動かした視線は思いがけなく現れた人物のそれと絡み合い、その瞬間僕の息と思考回路は止まった。頭がぐらぐらと重たい。
会いたかった、会いたくなかった。無事で良かった、どうしてここに?安堵と同時に恐怖と不安が蘇る。もう少し、もう少しだけ時間が欲しかったのに。


ゆらゆらと見えていた悪夢をはっきりと思い出した。

それはまるでデジャヴ。

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