極彩色の世界

□9.琥珀に閉じ込められた虫
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知られたくなかった。そうしたら光はきっと責任を感じるに違いなかったから。だから責任感と同情で別れを思いとどまったんだと思う。そう考えると、僕はまるで事件を利用した卑怯者みたいだ。

「馨…ごめんな、俺のせいで…」

謝らないで、惨めになるから。僕の為に泣かないで、光は何も悪くないよ。抱きしめてくれる腕や匂いも、今の僕には痛いばかりで。情けないことに言葉を発しようとしても嗚咽しか出てこない。それがまた光の迷惑になるのだとわかっているのに。
光は僕を抱きしめながらずっと背中をさすってくれていて、頭がぼうっとする中ただ光の心地良い体温を感じていた。これからどうしたらいいのだろう。仲直りしたと言えるのか、こんな気持ちで今まで通りに接することができるのか、恋人同士と言えるのか…。
だけど、自分から別れを告げるなんて無理だ。光の優しさが辛いと思いながら、それにいつまでもすがりつく僕は本当に卑怯…だよね。


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「大丈夫、もうちょっとしたら退院できるみたいだから」

もうすぐ今日の面会時間が終わる。光は心配だからここに泊まると言いはり看護師さんを困らせていた。けれど、ね?と笑ってみせると(上手く笑えていたかな)渋々とした様子で帰っていった。また明日くるから!という言葉を残して。
静かに閉められるドアを見届け、またベッドに横になる。光に触れられていた場所が…まだじんわりと熱い。それを紛らわしたくて深く息を吐いてみたけれど、熱は一向に逃げていってはくれずより一層僕の中でくすぶる。
光は、泣いてばかりいた僕のことをどう思ったかな。面倒くさい奴?狡くて醜くて卑しい奴?こんな僕を見られたくない優しくしないでという思いと、それでも側にいてほしい優しさがほしいという思いが交差する僕は、どこまでも矛盾している。染み付いた残り香が切なかった。


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もう楽しかった幸せな日々に後戻りはできない。別れを告げて別々に前に進むこともできない。(それは怖がりな僕の我が儘だけれど)


僕は、身動きができない。

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