光馨小説

□※君の願いを叶えることが、最後の愛の形であるとしたら、
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馨は時々、夜になると発作を起こす。

「…っ…ひか、る」

僕が見えているのかいないのか、何も映していないような目をして(それこそ死んだ魚のような、うわ馨に似合わないなんて汚い例え)小刻みに震えながら苦しそうな呼吸を繰り返す。
伸ばされる細い手を握り背中をさすり時折強く抱きしめながら、僕は馨の望む台詞を繰り返し呟く。


「大丈夫、大丈夫だから」

「僕はここにいるよ」

「馨、愛してる」


.
苦しんでいる馨に僕ができることはこれくらいしかなく、自分の無力さを思い知らされる。それが凄く悔しくて歯痒くて情けない。
何でも分かっている分かり合えているなんて根拠もないのに自惚れていた、頼りない恋人で本当にごめん。




「も………ろ、して…」

「っ……かおる、」


震える手に導かれるまま、細い首筋に手をかける。何を、と驚いたけれど、僕を見つめる瞳の訴えに言葉を失った。
このまま力を込めれば、馨は楽になれるのだろうか。そう思い、ぐ、と僅かに力をかけると馨の唇にうっすらと笑みが浮かんだ。
その刹那、自分の目からぼたぼたと涙が零れ馨の頬を濡らした。(その涙の筋が馨のそれと混じり合いひとつになったことが厭に悲しかった)



「馨…愛してるよ」




―君の願いを叶えることが、最後の愛の形であるとしたら―


僕は喜んで罪人にでもなろう。


.

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