光馨小説

□愛欲のメランコリーに溺れて
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鏡夜→←馨


馬鹿げている、と思う。
こんな生産性のない、快楽だけを貪る行為に何の意味があるというのか。
そうわかっていても止めることができない程、俺は馨に心酔している。そうして拒まれないことを都合のいいように解釈し、今日も自宅に招き入れ体を重ねる。



「いっ…たぁ、鏡、夜せんぱ…!」

シーツを掴む手のひらは、決して俺に縋ることがない。それが妙に腹立たしく思えて、強引に唇を重ね腰を強く打ち込む。
嬌声を上げて恐らく生理的であろう涙を零すおまえが奇麗すぎて、ぞくぞくと背筋が震えた。
きつく閉じられた瞳は頬を撫でればうっすらと開けられ、その潤んだ悲しげな色が加虐心を煽るのだ、と言ったらおまえはどんな顔をするんだろうね?

その綺麗な顔を恐怖で歪めてでも手に入れたい、その綺麗な体を傷つけてでも手に入れたい。その為ならば、何を捨てても何を失っても構わない。
馬鹿げた独占欲だとしても、ここまで何かを心底手に入れたいと必死になったのは初めてだ。


――絶対に逃がさない。


もっともっと、深くまで堕ちてこい。
そして溺れて俺に縋りつくがいい。




.
鏡夜先輩に抱かれるのは嫌いじゃないんだ、正直に言って本当に気持ちいいから。
でもあの冷たい目をどうしても見ることができない。僕の体しか見ていない、僕の気持ちなんかどうでもいい、そんな冷たい目だからだ。
だから僕は、どんなによくてもどんなに辛くても、絶対に縋りつかないと決めた。


「んう、ぁぁあっ」

無理矢理キスされて無理矢理ねじ込まれて、それで感じちゃうなんて。全身がぞくぞくと震えてなぜか涙が零れた。
ぎゅっと目を閉じて押し寄せる快楽に耐えていると優しく頬を撫でられる。思わず薄目を開けたら、冷たく笑う鏡夜先輩が見えた。


――怖い。


それでもどうして僕は、この人に溺れているんだろう。



真実の溶け込んだキスは、少し涙の味がした。


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