光馨小説

□運命なんて信じていないけれど
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おはよう、と優しい声が風に乗って耳に届く。僕の大好きだった光の笑顔がはっきりと思い出せる。
ねえ、馨は今日も可愛いねって言葉、光だっておんなじ顔なのに、よく毎日毎日口にしてたよね。
それを光に言ってやったら、馨は自分をわかってない!って何故か怒られたりして。僕からしたらそれこそ意味わかんなかったけど、そういうめちゃくちゃなとこ、大好きだったよ。











『馨っ…や、だっ!なん…なんでだよ!!』

ああ、滅多に泣かない光が泣いてる。
そんな涙声で名前を呼ばれたら、僕まで泣いちゃいそうになるよ。(涙は出ないけど――)

『光!これ以上はもう…』
『もう、馨を楽にさせてあげないか…』

お母さんもお父さんも、らしくない震えた声で。お父さんはバタバタと大きな音を立てて暴れてる光を抑えてるのかな。






僕の内臓はもう機能をほぼ失っていて、代わりにたくさんの管と機械が命を繋いでいた。
だけどそれも長くは続けられないって、僕はお医者さん達が話しているのを聞いて知っていたし、何よりだんだん自分のモノじゃなくなっていく体の感覚からわかっていた。
それでも僕を絶対死なせないって泣く光と、回復するかもしれないという僅かな希望にかけた両親の思いに少しでも応えたくて、ここまできた。


でももう限界かもしれない。体が本当にここにあるのかどうかすら、わからなくなっちゃったんだ。それに、管まみれの情けない姿を、これ以上大好きな人たちに見られたくない…。


僕は充分生きたよ。
お父さんとお母さんの子どもに生まれて、光と双子に生まれて、本当に幸せでした。
こんなにも愛してもらえて、本当に本当に幸せでした。





光、ありがとう。大好きだよ。
ねえどうか幸せになってね。
これからもっともっと、愛に溢れた人生をおくれますように。


さよならの言葉は言わないよ。

運命なんて信じていないけれど、でも僕らなら、きっとまた逢える。

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